本の紹介
ノーマン夫妻著
「バターン、死の行進」
侵略戦争の欺まんを暴く衝撃の書
太平洋戦争のなかで、フィリピン・ルソン島のバターン半島で引き起こされた「死の行進」と呼ばれている残忍で過酷な事件。この本は、マイケル・ノーマンとエリザベス・M・ノーマン夫妻が10年の歳月をかけ、多数の関係者から取材し膨大な資料を調査して、あらためて日本軍による非人道的な事件の実相を明らかにしたものです。
1941年12月8日に始まった太平洋戦争は、けっして連戦連勝ではなく、フィリピンでは、はじめの50日間で約半数の兵力を失う危機的な状況に直面していました。劣勢を挽回しようと、軍司令官の本間雅晴中将は、兵力の大増強を要請し、アメリカ・フィリピン合同軍が防御していたバターンは陥落します。捕虜となった約8万人の兵士は、道なき道、ジャングルのなかを十分な食糧・水もない中、昼夜を問わず100キロ先の収容所、オドネルに向けて行進させられたのです。
この行進中におきた事件や惨事はおびただしいものでしたが、そのひとつ、バランガ川沿いの出来事は凄惨(せいさん)を極めました。川のほとりに野営していた日本の兵士たちは、司令官から「飲めるだけ飲んでいい」と大量の酒を支給されると、後手に結ばれがけに立たされた捕虜たちのところに案内され、「どの捕虜でも好きなだけ殺してよし」と命令されました。「銃剣が繰り出されるたび悲鳴があがり、山にこだました。おおぜいの捕虜が横たわる谷底からは、うめき声と泣き声の合唱である…」
太平洋戦争を美化する教科書
国が認定・採用へ危ない動き
今年も皇国史観にもとづき「新しい教科書をつくる会」などが作製した教科書が、文部科学省の検定に合格し、教育委員会の判断によっては採用の可能性が出てきました。その教科書には、「日本はインドネシア、インドを欧米の支配から解放し歓迎された」とか、「韓国では国の近代化に協力し、ハングルを普及させた」など、関係国の人々が読んだら憤飯ものの記述が堂々と載っています。ただごとではないのは、自民党が中心になって都道府県議会でこれらの教科書を「積極的に採用すべき」と決議し、教育委員会に圧力をかけていることです。
教育は歴史問題に限らず、平和を希求し真実を教えるものです。いま問題となっている原子力発電も、小・中学校の教科書には「原子力はワクワクランド」「原子力はクリーンで電気代も安い」などと記述され、「安全神話」を振りまく役割を果たしました。
本書は、日本が東南アジアの人々と仲良く暮らしていくために、学校教育で教え伝えていかなければならない歴史のひとつと言えるのです。
(埼玉農民連 松本慎一)
▼ 定価 3800円
▼ 河出書房新社
(新聞「農民」2011.8.1付)
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