「農民」記事データベース20110620-977-01

アメリカ・財界が指揮権を
完全に握る「大連立」のもと

強まるTPP参加の危険

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 “ペテン師”と“宇宙人”のすれ違いから始まった菅おろし騒動。経団連会長の米倉弘昌氏は、菅首相を「捨て石」(捨てカン?)に、大連立を急げと号令を発しています。アメリカ・財界べったり政治の新興担い手である民主党と、本家である自民党が野合して連立政権を作れば、アメリカ・財界が指揮権を完全に握ることにならざるをえません。

 TPP(環太平洋連携協定)問題も「風とともに去りぬ」ならぬ、「菅とともに去りぬ」になればいいのですが、ことはそう簡単ではなく、むしろTPP参加の危険が強まる可能性があります。

 9月の訪米で参加を約束?

 菅政権は昨年10月、TPP参加を打ち出し、6月までに「農業構造改革」を進め、秋には参加を決めるというスケジュールにもとづいて、TPP推進一色の政治を進めてきました。東日本大震災で少しトーンダウンしましたが、「昨年11月に閣議決定した基本方針そのものは方向性は変えないで維持していく」(5月18日、菅首相の記者会見)と述べ、“例外なき自由化”の基本方針を堅持することを強調しました。

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国会前にすわりこむ農民連・食健連=2010年11月10日

 さらに菅首相は5月26日の日米首脳会談でも、基本方針堅持の考えを表明し、自分の方から「TPP交渉参加の判断時期については、改めて総合的に検討し、できるだけ早期に判断したい」と言明。オバマ大統領から「震災にもかかわらず引き続きTPPについて検討されていることを評価する」という褒め言葉をもらい、9月に訪米し、日米首脳会談を開くことで合意しました。

 「読売」(5月28日付)によると、日本が中国・韓国、EU(欧州連合)とのFTA(自由貿易協定)を進める動きを強めていることに対し「米国は『震災支援に最も協力したのは我が国なのに、なぜ他の国との協定を先に進めるのか』などといらだちが高まっていた……菅首相が(TPP)早期判断の方針を伝えた背景には、こうした米国側の感情に配慮したことがある」といいます。

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長野県中川村では村長のよびかけで集会・デモ(2011年2月20日)

 アメリカのTPPゴリ押しの背景には、WTO(世界貿易機関)交渉の破たん、“アメリカ抜き”に進むアジアのFTAの広がり、東アジアにおける中国の影響力の増大があげられます。

 菅首相訪米の可能性はほぼなくなりましたが、対米従属の本家・自民党が加わる大連立のもとで、TPP参加の危険性は強まることになりかねません。

 “居直り強盗”のような財界の圧力

 もう一方の指揮官、財界の圧力はいっそう露骨です。経団連は大震災から1カ月後の4月19日に「わが国の通商戦略に関する提言」を公表し、TPPへの参加を最大の重点課題に、日EU・日中韓FTAの推進などを要求しました。さらに4月30日には、財界3団体が東日本大震災復興構想会議にシャシャリ出て、TPP参加や道州制導入を連呼しています。

 その特徴は、政府やアメリカが、TPP参加の検討が震災で遅れていることに「考慮」や「理解」を示しているのに対し、財界はTPP参加の検討を急ぎ、それをテコにして、農業の大規模化や企業参入を要求していることです。復興に名を借りた“火事場泥棒”のような態度です。

 もう一つの特徴は、空洞化の脅しです。前経団連会長の御手洗冨士夫氏は「震災による被害で、国内産業の空洞化が進行しかねない」とし、TPP参加を「早めることはあっても遅らせることがあってはならない」と述べました(日経、6月6日付)。

画像 しかし、同氏が会長を務めるキヤノンは、空洞化を最も積極的に進めてきた企業で、海外生産比率を01年の35%から10年には53%に、海外従業員比率を52%から64%に高めてきました(図)。どんどん空洞化を進めてきた企業の経営者が、震災を口実に「空洞化させるぞ」と脅してTPP参加を迫る――こういうのを“居直り強盗”というのです。

◇  ◇  ◇

 大震災後、今も続く食糧難というべき事態は、日本農業の再生と食料自給率向上が切実な課題であることを浮き彫りにしました。これに真っ向からそむくTPP参加は絶対に許さない――震災復興と原発被害の完全な賠償の運動とあわせて、燃える夏に。

(真嶋良孝)


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(新聞「農民」2011.6.20付)
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2011年6月

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