東電に全損害の賠償を求めるために
戸張順平、鮎川泰輔両弁護士に聞く
東京電力・福島第一原子力発電所の放射能漏れ事故による農産物への被害が深刻化しています。東電に全損害の賠償を求めるために何が必要か。JCO放射能漏れ事故(1999年、茨城県東海村)で損害賠償の請求活動に携わった弁護士の戸張順平さんと鮎川泰輔さん(水戸市)に聞きました。
全損害の証拠残し記録を
自己規制せず全額請求は当然
東電に請求する基本的考え方は
――今回の原発事故で、農家は大きな被害を受けています。東電に損害賠償を請求するにあたっての基本的な考え方は何でしょうか。
損害賠償を請求するときには、(1)加害者側の過失(2)損害の発生(3)その間の因果関係―が必要です。過失によって起こった事件・事故との関連で損害が発生したことが大原則です。
今回の事故は、東電側の故意に近い重過失の加害行為、人災といえるでしょう。国会では、日本共産党が35年前から「原発の安全神話」を批判し、地元の住民からは再三警告が出ていたのに無視し続けたことが事故を招いたのです。
東電には、独占企業として、国民、農・漁民の声に耳を傾けてこなかったおごりがあったというべきでしょう。
警告通りの結果を引き起こしたのですから、被害者が東電に弁償してもらうのは、当たり前のことです。少しもちゅうちょする必要はありません。まず東電に謝罪させ、1日も早い被害の回復を求め、そして被害を受けた農民が「当面の生活を保障せよ」と主張することは当然なのです。
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戸張(左)、鮎川両弁護士 |
損害さえあれば賠償はだれでも
――だれでも請求できるのでしょうか。
原子力損害の賠償に関する法律(原子力損害賠償法)3条には「原子炉等の運転により原子力損害を与えたときは、原子力事業者がその損害の責めに任ずる」と定められています。これは加害者の故意や過失を問題にすることなく、損害さえあれば被害者は責任を問えるという無過失責任です。
3条のただし書きには、「その損害が異常に巨大な天災地変または社会的動乱によって生じたものであるときはこの限りではない」と定められています。確かに今回の地震は「異常に大きな天災地変」でしたが、安全基準の低さが原因の人災です。このただし書きが適用されないことは、枝野官房長官も認めています。
このように無過失責任だから、損害さえあれば賠償は認められます。もし東電が「払えない」というのであれば、それは損害を認めないか、あるいは責任逃れです。東電に金がないなんてことはありえません。損害は現に発生していますし、東電は直ちに仮払いをすべきです。
4月15日に原子力損害賠償紛争審査会が設置されました。この審査会の目的は、紛争についての和解の仲介と判定の指針をつくることです。農民連の今回の請求は「和解」、つまり「譲り合うこと」を求めたのではありません。こちらから譲ることは何もないのです。本来ならば、東電が農家の要求を聞き入れて損害の賠償を行えばよいのであって、審査会の設置など必要はないわけです。
損害は明らかですし、その被害に対する賠償を全額求めるのは当然のことです。請求しなければ絶対に払ってもらえません。自己規制をしないで、損害だと思ったらすべてを請求することが大事です。
――請求にあたって何が必要でしょうか。
まずは、損害を受けたことを示す証拠をきちんと残すことです。もし原発事故による農産物の出荷キャンセルや値引き要求がきたら、電話でなくファクスでやりとりすることです。畑のすき込みができなければ、その写真を撮っておく。四隅から撮り、日付を記録してください。税金の申告などに使った前年の取引関係の書類も必要です。
「農民の心」発揮して集団請求を
――受けた損害とはどのようなものでしょうか。
たとえば今まで日当3000円で働いていた外国人研修生が帰国してしまったという場合であれば、その労働力を補うために日当1万円で日本人のパートを雇ったために7000円の損害が生じたことになります。こういったものも請求できますから、給与明細書のコピーは保管しておいてください。その際に証拠の期間や日付を明確にしておくことが重要です。
――最後に請求運動を進めるうえでの心構えを。
損害を受けたら、きちんと請求し、支払われるまで追求するのが「農民の心」です。農民連が「農民の心」を発揮して、結束して東電に集団請求行動を起こし、政治を変える展望を示しながら、たたかいを積み上げることが大事だと考えます。
(新聞「農民」2011.5.2付)
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