食品の放射線量
“暫定基準”は“がまん基準”
原発問題で特別シンポ開く
特別シンポジウム「原発・核兵器 私たちの未来」が4月11日、原水爆禁止日本協議会の主催で開かれました。急な開催呼びかけにもかかわらず、300人を超える参加者で会場は超満員となり、熱心な討論が繰り広げられました。パネリストとして、国会で原発問題を追及してきた日本共産党の吉井英勝衆議院議員と、放射能防護学が専門の日本大学専任講師の野口邦和さんが講演。福島県の浜通り農民連の三浦広志さんが、放射能汚染に苦しむ被災者として特別発言しました。野口さんと吉井さんの2人の発言要旨を紹介します。
合理的できめ細かい対応を
放射線防護学研究者 野口 邦和さん
現在、半径20キロメートル圏内が避難範囲に、30キロメートル圏内が屋内退避地域になっていますが、この根拠が今日に至っても、明確に示されていません。避難生活には大きなストレスと困難が伴うわけで、問題だと思います。そもそも風向きを無視した同心円で範囲を設定すること自体が、現実の飛散状況とかけ離れています。
海洋の放射能汚染ですが、3月21日にようやく調査が始まりましたが、汚染は徐々に拡大しています。私も当初は、海洋生物が汚染するには時間がかかるので、大丈夫だと考えていましたが、実際にはコウナゴから暫定基準値を超えるセシウムが検出されています。これ以上、放射性物質を漏出させないことが非常に重要です。また政府と東電が「低レベル汚染水」と主張する放水についても、濃度も放射性物質の種類も一切発表がありません。本当に「低レベル」なのでしょうか。
野菜、水、土壌への汚染について、マスメディアは食品の放射線量の暫定基準を安全基準と称することが多いようですが、これは「安全基準」ではないのです。本来、放射線量は少なければ少ないほど良いのです。しかし現に原発事故が起こって、私たちは一定程度汚染されたものを食べざるをえません。この暫定基準は、「これくらいはがまんしないと、十分な食べ物がなくなってしまう」という「がまん基準」とでもいうべきものなのです。
原乳について、半減期の長いセシウムが基準値を超えている原乳は廃棄せざるを得ないとしても、ヨウ素だけが基準値を超えている原乳であれば、80日もたてば放射能はほとんどなくなりますので、生乳として飲用せず、チーズやバターに加工し、貯蔵しておけば食用可能です。捨てることはない。
野菜の出荷制限についても、当初は県単位でしたが批判を浴びて、市町村単位になりました。このように、一律に廃棄とするのではなく、もっと合理的に、きめ細かく対応すべきですし、そういう国民の声を大きくする必要があると思います。
福島原発事故は二重の人災
日本共産党衆院議員 吉井 英勝さん
原発は1基作るのに3000〜5000億円がかかり、東芝、日立、三菱重工といった原発メーカー、鉄鋼やセメントなどの素材供給メーカー、建設にあたるゼネコンなど、大企業の大もうけになります。さらにこれらの大企業や労働組合から支援を受ける政治家、天下り先が確保される官僚、電力会社、長期にわたって資金を提供する銀行など、原発推進をめぐっては、いわば「原発利益共同体」とでもいうべきものができあがっています。こうしたなかで、都合の悪いことはとにかく隠すという、秘密主義がまかり通っているのです。
福島原発の事故は、「二重の人災」であるということを強調したいと思います。
一つには、地震や津波が原因となって、外部電源と内部電源の両方とも損壊し、冷却ポンプが働かなくなり、炉心溶融が起こる危険性がかねてから指摘されていたにもかかわらず、その対策が取られていなかったことです。私も国会でこの問題を何度も追及しましたが、推進勢力は「日本の原発は何重にも備えがあるから大丈夫だ」とずっと答弁してきました。しかし今回まさに私の指摘どおりのことが起こった――これが一つ目の「人災」です。
もうけ優先した東電と日本政府
二つ目は、すぐに海水注入をせず、炉心冷却の対策が遅れたことです。海水を注入したら、あとは廃炉にするしかありません。古い福島第一原発は、東電にとってすでに償却済みの資産で、発電すればするほどもうかるという資産でした。つまり東京電力はもうけを優先したのです。政府も東電に対して、ただちに注水しろと命令するべきでしたが、それも遅れ、今日の事態を引き起こしているわけです。
今後、1日も早い事態収束に向けて、東電や原子力安全・保安院だけでなく、国内外のあらゆる英知を結集することが求められています。
(新聞「農民」2011.4.25付)
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