心を動かすラーメン作りたい
国産食材使って自給率アップ
埼玉・加須市
関連/安西美佐子さんのイラスト
田園風景がどこまでも広がる埼玉県有数の稲作地帯、加須市に、国産材料100%でラーメンを作っているラーメン店「ラーメン空海」があります。店に一歩足を踏み入れると、「当店のラーメン、すべて国産食材です」という大きな表示をはじめ、産地表示や熱いメッセージがズラリ。昨年夏には、埼玉食健連(農林業・食料・健康を守る埼玉連絡会)にも加入したオーナーの松井潤一さんに、食の安全・安心と、食料自給率向上にかける熱い思いを聞きました。
★ラーメン空海
営業時間=11時〜22時、定休日=毎週(月曜日祝の際は翌日)、駐車場=約15台、住所=埼玉県加須市下樋遣川365‐1、TEL0480(68)4337。埼玉県道82号沿い、東北自動車道羽生ICから栗橋方面に約3キロメートル、加須ICから8・5キロメートル。
ラーメン空海
食糧の外国頼みこれは国の危機
――なぜ国産食材にこだわるのですか。
毎日、食べ物を相手に仕事してるでしょ。食材がね、問いかけてくるんですよ。こんなに輸入ものばかりでいいのかと。世間はよく“食の安全、安心”と言うけれど、本当の食の安全・安心とは、日本の食糧がどういう状況かということだと僕は思うんです。
食料自給率40%といっても、米をのぞけば他の食べ物は圧倒的に外国産が多い。安全性の面でも、国民の命綱である食糧を外国頼みにする面でも、これは国の危機です。日本の食料自給率を向上させるために、食を扱うラーメン屋として、国産食材をもっともっと活用して、国内の農業を盛りたてたいと思ったんです。
――でもそれを実践するとなると、たいへんではありませんか。
いや、やればできるよ。でも、もうからない(笑い)。飲食店は通常、安い食材を使うことで利益を生み出します。でもそんな飲食店ばかりでは、安い外国産食糧ばかり増えて、日本国内の農業が衰退してしまう。僕はそこを消費者に訴えたいんです。
食料はみな国産新鮮・安全・安心
――いつから国産食材の活用に取り組み始めたのですか。
ラーメン屋を開いて20年、国産食材にこだわって10年近くなります。すぐにできたわけじゃない。一つ一つ食材を切り替えてきました。
今ではスープに使う豚骨も、鶏ガラも、昆布も、煮干しも、タレに使う材料もみんな国産。一つ一つ愛情をかけて、スープ、温度、食感、すべてを総合して1杯のラーメンに表現しています。プロであるからには、人の心を動かすラーメンを作りたいと思ってるんです。
――国産食材の良さはありますか。
一番に実感するのは、まず日持ちの良さ。例えば中国産ネギは安いけど、入荷の時点でもう鮮度が落ち始めてるから、店で使える期間が短くなります。国産のネギならなんたって新鮮だし、皮むきの必要もない。ホウレンソウなんかも地元の農家から仕入れてるんですよ。国産のものは、自然のおいしさがありますね。麺も「ゆきちから」という石臼びきの岩手県産小麦を使っています。
飲食業者にも表示義務化必要 ――昨今はラーメンブームで、マスコミなどでもラーメンがもてはやされていますが、どう感じていますか。
実態を伝えてないですね。実はラーメン専門店でも化学調味料や食品添加物が多用された業務用のタレやスープが大量に使われています。しょうゆスープも、しょうゆに水と塩と化学調味料を混ぜた業務用「ラーメン濃縮スープ」が売られていて、それを薄めるだけでできます。スープ作りを食品業者に丸投げで発注し、業者が店舗に運び込むだけというチェーン店もあります。これではたとえ看板はラーメン屋でも実態は単なる加工食品です。
ラーメンは料理なんです。材料を吟味して、下ごしらえして、自分が思う味をどう表現するかが、料理の勝負なんです。しかし残念ながら7割のラーメン屋がこうした業務用加工食材を混ぜ合わせているのが実態。その方がもうかるし、すべてを自分で作るだけの技量がない、という理由もありますね。
――そういうことは消費者には全く知らされていませんね。
そうなんですよ。僕が問題にしたいのは、飲食業には、原産地も添加物もまったく表示義務がないこと。消費者は、外国産の食材ばかりであることも、食品産業が作った添加物だらけの加工食品であることもわからず、選択の自由が奪われているんです。輸入食材も、化学調味料も全否定はしないけど、消費者が自分が何を食べているのかわかるよう、表示の義務化が絶対に必要です。
国産使う飲食店生産者も応援を
――これからの抱負を聞かせて下さい。
いま、食健連の皆さんにもよびかけて、この店で食の地域学習会を開きたいと思っているんですよ。学習会の第1回は、農民連食品分析センターの八田純人さんに講師をお願いしたいと思っています。TPPに反対するにも、やっぱり地域で生活する人間の声を大きくしなきゃ。そして国産食材を使おうという飲食店や消費者をもっともっと増やしていかないと、農業も守れないと思います。農民連さん、ぜひ一緒にやりましょうよ。
それと、農民連と食健連にお願いしたいことがあるんです。ぜひインターネットのホームページなどで「国産食材を大切にしている飲食店」をたくさん紹介して、盛り立ててほしいですね。そういう店同士が情報交換できたり、交流もできると、もっと違う展開になると思います。農水省やJA、農家の皆さんにも、こうした飲食店の応援を強力に推し進めてもらいたいですね。
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神奈川・横浜市 安西美佐子 |
(新聞「農民」2011.4.11付)
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