乳業は地域の酪農あってこそ
社団法人日本乳業協会
常務理事 滝沢 喜造さんに聞く
TPP(環太平洋連携協定)に対して、食品・飲料業界からも懸念の声があがっています。乳業メーカーの業界団体、社団法人日本乳業協会(会長=古川紘一・森永乳業代表取締役)の滝沢喜造さん(常務理事)に聞きました。
「TPP」慎重な対応を
輸入乳製品には太刀打ちできぬ
私たち乳業業界は、生乳を酪農家から全量引き取り、余ったらバターや脱脂粉乳などに加工しながら、需要に応じて製品にして消費者に提供しています。いわば生産者と消費者との間で調整弁の役割を果たしています。
昨年は、「積み上がった乳製品の在庫をどう減らすか」からスタートしましたが、夏に状況が一変しました。猛暑で牛や牧草に影響がでて生産量が減少し、積み上がった在庫が一気に減少しつつあります。現在、消費者の需要に応えるよう生産者も乳業者も努力しているところです。
これまでのWTO(世界貿易機関)やFTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)では、事業の効率化や合理化などの経営努力で対応してきました。しかし、TPPがこれまでと違うのは、例外を設けることなく輸入を全面的に自由化しようとするものになっていることです。
もし政府が何も対策をとらなければ、農水省が試算したように、乳製品は鮮度が重視される牛乳、生クリーム等を除いて、すべて輸入に置き換わってしまいます。外国産の安い乳製品には太刀打ちできず、生産者や乳業業界の通常の努力ではとても耐えきれません。
政府が何もしないということは考えられませんが、いまだに対策がみえず、十分な議論もないまま推し進めることには異論があります。大きな議論を経て、慎重な対応をお願いしたいと思います。
酪農と乳業の振興をさらに
「乳業は輸入乳製品で商売ができるから、自由化しても影響がない」とよくいわれますが、現在、乳製品の自給率は、生乳換算で約70%です。私たちは国内で生産された生乳を原料として使っています。国内の酪農がだめになって、乳業だけが生き残るということはありえません。地域に酪農があってこそ、私たちの工場も稼働できるのです。
私たちは今のところ、推移を見守っている段階ですが、産地によっては、TPP反対の行動を生産者と一緒になって取り組んでいる私たちの会員企業もあります。それぞれの産地で判断していただければいいことです。
現在、少子高齢化や、お茶・コーヒーといった飲料業間の過当競争などで、牛乳の消費量が減少傾向にあります。私たちは「健康飲料・食品としての牛乳・乳製品」をもっとアピールし、消費拡大につなげ、酪農と乳業の振興にいっそう取り組んでいきたいと考えています。
(新聞「農民」2011.3.14付)
|