「農民」記事データベース20110228-962-05

農協 経済事業自立への課題

規制・制度改革分科会「中間とりまとめ案」の問題点


「信用・共済」から補てん?

 「総合農協の経済事業は、信用・共済事業の補てんによって成り立っている」とよく言われますが、本当でしょうか?

 補てん金どうやって段階的に減らすのか

 民主党政権は、自公政権時代の規制改革会議をそっくり受け継いで、行政刷新会議のもとに規制・制度改革分科会を設置しました。その目的は「時代や状況の変化に合わなくなった規制・制度を見直し、健全な社会発展をめざす」(政府ホームページから)ことです。

 1月26日に開催されたこの分科会に、「中間とりまとめ案」が出されました。昨年12月に出されたワーキンググループの原案では、農協について「信用・共済事業の分離」が提言されていましたが、今回はこれを削除。それに代わって、「農業関連経済事業への信用・共済事業からの補てん額を段階的に減らすため、中長期的な計画を2011年度中に策定すべき」と提起しています。

 しかし現実には、全国どこの農協でも信用・共済事業が経済事業に補てん金を出しているという事実はありません。どうやって段階的に減らすというのでしょうか。

 農協の販売・購買事業を中心とする経済事業は、たしかにいまの部門損益計算方法では多くの農協で赤字になっています。仕入れ価格に手数料を上乗せして供給価格を決めることができる購買部門はともかく、農家の生産物を市場に出荷する販売事業では、市場価格そのものが低迷しているため、単位農協では販売事業にかかった経費をすべて手数料として差し引くと、農家への販売代金支払いがゼロかマイナスになるため、平均して2〜3%しか受け取れていません。その結果、販売事業は赤字になります。いま多くの農家は、米価でも明らかなように、生産コストを賄えない経営を強いられています。生産原価無視の市場構造を改めないかぎり、問題は解決できません。

 事業部門別の損益計算に約束事が必要

 それとともに大きな問題は、いまの総合農協における部門ごとの経営分析手法のなかに、経済事業に不利な計算方法が含まれていることです。

 もともと日本やアジアの農協が総合農協として発展したのは、水田稲作が家族零細経営で行われていることに根拠があります。家族経営では、営農と生活が1つの単位として総合経営の姿になっており、それを支える農協も総合経営が共通の形態となっています。

 こうして発展してきた総合農協では、事業部門ごとの相互依存による合理的で効率的な経営が進められてきました。日本の農協も1900年に始まった産業組合法の第1次改正(1906年)以来100年以上にわたって、「四種兼営」という総合経営で発展してきました。農産物販売代金は貯金口座に振り込まれ、購買代金は貯金口座から引き落とされるというトータルシステムは、近年になってから始まった銀行の総合口座システムや流通業界における販売代金口座振替制度を、半世紀以上も先取りした優れたシステムだと言えます。

 しかし、この異種事業間の提携による総合システムは、事業部門別の損益を計算するには、部門間のやりとりを客観的に評価する方法をはじめ、いくつかの約束ごとをつくらなければなりません。その約束ごとに矛盾が避けられないとすれば、分析結果の活用についてもそれをふまえた十分な留意が必要です。

(山本)
(つづく)

(新聞「農民」2011.2.28付)
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2011年2月

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