「農民」記事データベース20110221-961-09

「平成の売国」TPPを許さず、
食糧と農業、この国を守ろう

農民連第19回大会への特別報告 真嶋良孝副会長

 真嶋良孝副会長は、「『平成の売国』TPP参加を許さず、食糧と農業、この国を守ろう」と題して、常任委員会の特別報告を行い、雑誌『農民』63号をもとに、最近の情勢の変化や1月中旬に行われた日米TPP協議などを解明しながら、TPP・自由化策動の背景を報告しました。以下、報告の要旨を紹介します。


TPP布陣の“問責改造・開き直り内閣”と日米TPP協議の危険な動向

画像 菅首相は、年頭の記者会見で、消費税増税と「平成の開国」に異様な執念を見せ、内閣改造を通じて経済産業大臣に自由化論者の海江田万里氏を充てるなど、TPP・消費税増税布陣を敷きました。そして菅首相は「自由化しなくとも、日本農業はあと5年か10年もすればつぶれる」と言っていますが、民主党幹部の大部分は自民党出身であり、WTO協定を受け入れたのは民主党の前身である細川連立政権でした。こういう農業にしたのは誰だったのかという問いに対して、まったく無反省だといわざるをえません。

 日米TPP協議では、アメリカ側から関税撤廃やBSE牛肉の輸入再開、郵便貯金・簡易保険の問題が議論されたと報道されています。また、経済産業省は、TPP“前のめり派”の大臣に代わったせいか、政府の「食と農林漁業の再生実現会議」幹事会(1月14日)の場に、「米の関税撤廃」を提案しました。

 食料自給率13%農業・関連産業の失業者350万人

 TPP参加によって、食料自給率は40%から13%に急落し、農業・関連産業の失業者は350万人という試算が農水省から示されています。2008年に続いて、小麦や大豆、トウモロコシなど穀物の高騰、食糧危機が大問題になっている真っ最中に、TPP推進を強行しようとしているところに、この政権の無責任ぶりと危険性があります。

 食糧主権こそ世界の流れです。元東京大学教授の森島賢氏は「世界の飢餓人口が10億人を超えようとし、国連で食糧主権が叫ばれているいま、『開国』は歴史を一歩進めるのではなく、世界の歴史に逆らって国際的な嘲笑(ちょうしょう)をあびる愚行になる」と、きわめて鋭く指摘しています。

イデオロギー攻撃に反撃する

 世論を分断するマスコミの異様なキャンペーンが続いています。マスコミ各社はTPP参加と消費税増税推進の“共同社説”を繰り返し、TPPに反対する者を「パブロフの犬のような条件反射」と、犬呼ばわりまでしています。前原外相は「第一次産業はGDP比でたった1・5%」と決め付けていますが、GDP比でみればアメリカは1・1%、ドイツやイギリスは0・8%であり、日本よりも低い。農民の平均年齢が「65歳以上の老人農業」と言うなら、鹿野農相は69歳、与謝野経済財政大臣は72歳、菅首相も64歳です。法人化すれば高齢化が乗り越えられるかのように言っていますが、日本の法人(企業)の平均寿命はおよそ40年で、8割はそれ以前に消滅しています。フランスでは、1970年代から青年農業者就農助成制度で後継者をしっかり確保してきましたが、こういう政策に学ばずに後継者確保にまったく無策で、若者に魅力のない日本農業にしたのは日本の歴代政権でした。

 “乗り遅れるな”というが…

 「乗り遅れるな」と財界が圧力をかけていますが、日本が韓国に追い越されているのは、EPA・FTAのせいではなく、為替レートと韓国企業の構造改革が原因です。特に為替レートは、異常な円高のもとで韓国ウォンに対して42%、ドルに対して32%円高になっています。これは42%、32%の関税に匹敵し、アメリカやEU諸国の関税をはるかに上回るものです。

 また、売上高の3分の1を内部留保としてため込んでいる日本企業と違って、韓国企業は設備投資にまわしています。イギリスのある新聞は、ヨーロッパの大企業が設備投資をさぼって内部留保を増やしていることを批判し、「貯めるな、使え」と指摘しています。これは、設備投資をさぼり、労働者の賃金をおさえて内部留保をためこんでいる日本の大企業にこそあてはまるものです。

 “構造改革で輸出型農業に”という大ボラ

 菅首相は「構造改革で輸出型産業」にして強い農業をめざすと言っていますが、これほどの大ボラはありません。森島氏は「(中国やアジアの富裕層を相手にした)米の輸出政策は、20年前から言われ続けてきたが、手詰まりになるごとに出てくる政策だ。そして失敗を重ねている」と指摘しています。

 最近の農産物輸出の内訳を見ると、全輸出金額2637億円のうち、米の輸出金額はわずか5億4500万円、0・2%にすぎません。これが「攻めの農政」の目をおおいたくなるような無惨な結果です。

 また、関税がゼロになれば「牛丼100円の時代が来る」のでしょうか。現在380円の吉野家の牛丼の材料費は114円。このうち米は33円、肉が56円で、米が6割安くなり、肉が2割安くなっても、牛丼は30円下がって350円になるだけです。結論として、消費者物価は1%も下がりません。

 それどころか、労働市場の開放で低賃金の労働者の「輸入」が迫られ、さらに貧困と格差を拡大させるでしょう。菅首相は「1に雇用、2に雇用」と言いますが、菅首相の雇用対策とは、外国人労働者の「雇用」対策のことではないでしょうか。

 海外逃亡に熱中する日本の大企業の言いなりでは、デフレ不況から脱却できません。内需の拡大こそ脱却の道です。日本のGDPの6割を占める家計消費を貧困と格差で底冷えさせておいて、デフレ不況から抜け出すことはできません。全労連・労働総研は、内部留保の20%を賃上げ・労働条件の改善にあてれば、約100兆円の経済効果が上がると試算していますが、これは現在いわれている「デフレ・ギャップ」の3倍にあたります。

歴史的たたかいに立ち上がろう

 TPPをめぐるたたかいは、米輸入自由化阻止のたたかいを上回る条件を持っています。菅首相が昨年10月に「TPP参加」の検討を明らかにして以降、急速に広範囲にたたかいの芽吹きが始まっています。TPPの影響は国民生活全体に及びますが、最も壊滅的な影響を受けるのが食糧・農業です。農民連が結成されて22年。自由化阻止の先頭になってたたかってきたわれわれだからこそ、いまこそ眦(まなじり)を決して歴史的なたたかいにたちあがろうではありませんか。

(新聞「農民」2011.2.21付)
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2011年2月

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