「農民」記事データベース20110131-958-07

野沢菜漬 炬燵(こたつ)談義

農民連顧問 小林 節夫


寒いところの漬物は
そこへ来て食べるもの

 信州の東北信では、冬の漬物に野沢菜がある。野沢菜は、西日本の高菜に似ているような気がする。食べ飽きない味だ。

 漬けるのは、木枯らしが吹く「こんなに寒くならないうちに漬け込んだらよさそうなものだ」と思う時期だが、野沢菜は、霜が何回か降りる11月末から12月初めにならないと葉がやわらかくならないし、おいしくない。因果な食べ物だ。

 空気にあたるとすぐ味が変わる

 野沢菜漬がおいしくなるのは、正月に入りべっこう色になってからだが、樽(たる)から出して空気にあたると1時間もたてば味が変わる。

 かつて、「東都生協の消費者が『北信のスキー場の民宿で食べた味が忘れられない』と言っている」という話をしたところ、“それでは”と秋田杉の特製の小さな樽に漬けて、佐久の平賀農協と産直が始まったことがある。だがそれも数年で沙汰(さた)やみになった。寒いところの漬物は、寒いところへ来て食べるものなのだ。

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この大きな樽に漬けます。ビール箱の上に秤(はかり)をのせて、野沢菜の目方を計り、塩の分量を決めます

 大人数で食べればおいしいもの

 かつて10人もの大家族だった私の家も、いつしか夫婦だけの生活になった。妻が「樽から一度にたくさん取り出さないとおいしくない」とこぼす。樽の中でも、野沢菜は上の方は空気に触れやすいからだろうか。

 大家族だと、どんどん取り出すからいつもうまいのだ。小さな樽では所詮(しょせん)おいしく食べられない。

 伝統食の漬物商売に適さない

 野沢菜の評判を知って、漬物を始める人がこの地方にも現れた。だが、冬だけでは商売にならないから年間営業を始め、そこにはソルビン酸が使われた。そうでもしなければもたないからだ。年中真っ青で、見た目でも味の上でも本来の野沢菜漬とはほど遠い。だからみんな潰れて廃業してしまって、今では一軒もない。当たり前だ。

 食べたければこちらへ来て、食べる直前に樽から出したものしかないと、いまさらのように思う。これぞ、伝統食の中の伝統食!

(新聞「農民」2011.1.31付)
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2011年1月

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