「農民」記事データベース20110131-958-05

COP16(国連気候変動枠組み条約
第16回締約国会議)対抗行動に参加して
(下)


日本政府に財界が強い圧力
温暖化対策が大きく後退

 国連の場で合意重要な第一歩に

 COP16の交渉結果は、「各国が積み上げた削減量では温暖化は止められず、この差をどうやって埋めるかという言及がない」、「COP17(2012年月11月)での合意が法的拘束力のあるものになるかが、今後の交渉まかせになっている」など、合意内容の面では非常に弱いものになっている一方で、重要な前進面もありました。

 それは、「地球温暖化問題の解決は、国連という多国間交渉の場で合意をつくる」ことが確認され、今回はかろうじてそれが成功したということです。COP15(2009年12月)が失敗した後だっただけに、途上国と先進国が平等の立場で交渉に臨むことができる国連での交渉に、国際社会の信頼が回復したことは、今後の世界の温暖化対策を進めていくうえで、非常に重要な第一歩となりました。

 京都議定書葬る日本に猛烈批判

 ところが、世界から猛烈な批判を浴びたのが、こうした温暖化防止の大きな流れに逆行する日本政府でした。日本政府は会議初日に「いかなる状況においても、京都議定書にもとづく第2約束期間の削減目標を約束することはできない」と、京都議定書を拒否する発言をして、「京都議定書を生んだ議長国が、キョウトを葬るのか。キョウトキラーだ」と、世界の大きな批判を浴びました。

 京都議定書は、市場原理主義の導入などの問題点も含んでいますが、同時に、地球温暖化における先進国の歴史的な責任と削減義務を明確にした、今日の温暖化対策の土台となっているものです。しかし日本政府は「京都議定書では、排出量第1位の中国が削減義務を負っておらず、第2位のアメリカも批准していない。不平等条約だ」として拒否したのです。

 日本の主張は一見すると正しいようですが、実はアメリカや中国が参加しやすいように世界の温暖化対策を緩めることで、日本の温暖化対策も緩いものにしたい、というのが本音なのです。

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環境NGOが世界各国の大手新聞に掲載した意見広告。日本のアニメ映画「千と千尋の神隠し」にちなんで、「菅首相は、京都議定書を“神隠し”しないで」と訴えた

 日本政府のこうした逆行姿勢の裏には、温暖化対策の強化に反対する産業界の強い意向があり、財界・大企業よりに舵(かじ)を切った民主党政権の姿勢があります。日本経団連はCOP16の会場に代表団を送って政府を“監視”したほか、日本の温室効果ガスの大部分を排出する電気事業連合会、鉄鋼連盟、石油連盟などの産業界はCOP16の期間中、連名で京都議定書の延長に反対する緊急提言を発表しました。

 実効性ある対策働きかけてこそ

 こうした財界・大企業の意向にそった民主党政権の後退姿勢は、日本国内の温暖化政策でも著しいものがあります。「温室効果ガス25%削減」を掲げた「地球温暖化対策基本法案」は現在も採択されておらず、大規模排出源の削減を進める排出量取引制度も先送りとなっています。その一方で、原子力発電を強力に推し進め、国連の交渉でも温暖化対策としては認められていない原子力発電の建設や運用などをパッケージにして途上国に売り込むという「パッケージ型インフラ事業」が、菅内閣の目玉政策である「新成長戦略」として推し進められています。

 日本政府は、財界の望み通りに温暖化対策を後退させるのではなく、実効性ある温暖化対策を強化し、世界に働きかけていくことが求められています。

(おわり)

(新聞「農民」2011.1.31付)
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2011年1月

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