「農民」記事データベース20110124-957-06

COP16(国連気候変動枠組み条約
第16回締約国会議)対抗行動に参加して
(中)


数千の解決策が人々の手中にある!

ビア・カンペシーナ「カンクン宣言」発表

 熱気あふれるビア・カンペシーナ国際代表団のなかでも圧巻だったのが、農業大臣を団長にして87人が参加したボリビアの代表団です。

 国際交渉の場に民衆の声反映を

 ボリビアでは昨年(2010年)4月、地方都市コチャバンバで「気候変動および母なる大地の権利に関する世界民衆会議」が開かれています。

 この会議は、ビア・カンペシーナ創立時の農民運動のリーダーの一人で、現在は同国の大統領であるエボ・モラレス氏が、気候変動に直面する民衆の声を国際交渉の場に反映させようと呼びかけ、先住民や社会運動、環境NGOのほか、政府代表など142カ国から3万5000人が参加。ビア・カンペシーナも主催団体に加わりました。

 そして、先進工業国は地球温暖化に対する歴史的責任を果たす義務があることや、今なお環境破壊を続けている資本主義のシステムの転換、食糧主権の確立などを内容とした「コチャバンバ民衆合意」を採択しました。

 ビア・カンペシーナのCOP16対抗行動でも「国際交渉は『コチャバンバ民衆合意』を反映した議論をすべきだ」という要求が、対抗行動全体をつらぬく大きなテーマの一つとなっていました。12月9日には、モラレス大統領がフォーラム会場にかけつけ、「地球は売り物ではない! 温暖化対策は被害に苦しむ民衆の声に応える内容にすべきだ」と演説し、割れんばかりの拍手とともに「コチャバンバ、シ!(スペイン語でイエスの意)REDD(注1)、ノー!」のコールが波のように会場を満たしました。

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デモ行進するボリビア代表団。中央の女性が団長の農業大臣

 前進はあったがまだまだ足りず

 しかしCOP16の交渉では、途上国の削減行動や資金問題など一定の前進はあったものの、各国政府が積み上げた削減目標だけでは、温暖化を止めるにはまったく足りておらず、その一方で、REDDやCDM(注2)といったカーボンオフセット(注3)、バイオ燃料、地球工学など、真の温暖化対策とはならない「抜け穴」ばかりが話し合われました。

 ビア・カンペシーナはCOP16の交渉に対して、「投機資本や新しい“グリーン”経済、共有財産の民営化の議論ばかりしている」と強く批判し、カーボンオフセットなどの「抜け穴」に、「うその解決策だ」「地球温暖化に新自由主義を持ち込むものだ」と強く反対しています。なぜなら、こうしたプロジェクトの現場では、「温暖化防止」を掲げながら実際には環境破壊が行われており、小農民や先住民が、もっとも被害を受けているという現実に直面しているからです。

 食糧主権こそが温暖化防げる

 ビア・カンペシーナはこの対抗行動の最後に、「数千の解決策が人々の手の中にある!」とする「カンクン宣言」を発表。温暖化の解決策は決して一つではなく、まして一部の多国籍企業が支配する社会・経済では実現できないこと、持続可能な農業の担い手である小農民を守る食糧主権の確立こそが、温暖化防止につながることを、高らかに宣言しています。
(つづく)


(注1)REDD=「森林減少・劣化に由来する温室効果ガス排出削減」。途上国で森林減少・劣化の防止策をとった場合、それによって排出されずに済んだCO2にクレジットや補償を与えるという仕組み。クレジットは売買できる。カーボンオフセットの一つ。COP16では正式決定とならなかったが、国際交渉を先取りするかたちで多くのプロジェクトが始まっている。しかしその実態は、天然林を伐採し、森林プランテーションにするなど、森林減少の防止につながらない事例や、森に暮らす先住民や小農民が追い出されている事例が続出している。

(注2)CDM=「クリーン開発メカニズム」。

 先進国と途上国の企業や団体が共同で排出削減プロジェクトを実施し、削減した温室効果ガスはクレジットとして売買できる。また削減分を先進国の目標達成に利用できるので、「抜け穴」となっている。

(注3)カーボン・オフセット=温室効果ガスを削減した場合、その削減分を炭素クレジットとし売買できる仕組み。本来は自分(自国)が負っている削減義務を、こうしたクレジットを買ってきて埋め合わせることができる仕組みでもある。

(新聞「農民」2011.1.24付)
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2011年1月

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