TPPで森林荒れ国土が崩壊
全国森林組合連合会
林政・組織部長 浅野明雅さんに聞く
政府が参加を検討しているTPP(環太平洋連携協定)により農林水産業は大打撃を受けるといわれています。全国森林組合連合会の浅野明雅さんに、林業への影響について聞きました。
輸入材のしわ寄せ
林業は1956年以降、開放に次ぐ開放で、段階的に関税の引き下げを受け入れてきました。その結果、輸入材の割合が拡大し、木材自給率は一時(2000年ごろ)、18%にまで落ち込みました。しかしその後は、関係者の努力により27%に回復しています。
この間、木材価格は大きく下落し、ピークの1980年に比べて、スギの立木は約1割、スギ丸太は約3割、スギ製品は約6割に低下しました。立木価格が著しく低いのは、輸入のしわ寄せが山側、つまり林業の現場にきていることを意味します。
森林所有者は5ヘクタール未満、特に1ヘクタール未満の小規模・零細所有者が多く、木材価格の下落や高齢化・後継者不足により、林業投資を継続できず、管理・手入れが十分行われていない“放置林”が増えています。
「林業再生プラン」
また相続も都市居住者への相続が多く、細分化されて、所有者意識が希薄になり、森林の境界そのものがわからなくなっているところも見受けられます。
こうした状況は、森林で作業する際に、非常に非効率で、生産的ではありません。境界が不明確な民有林を集約化し、公有林化するなど何らかの対応が必要です。
農水省が策定し、2011年度から実施される「森林・林業再生プラン」では、木材の安定供給を図り、雇用も含めた地域の再生をめざしています。2020年までに木材自給率を50%以上に引き上げる目標を立てています。
合板・集成材打撃
こうして林業再生のための新たなスタートラインに立った矢先に、TPPの話が唐突にでてきました。
林産物については、丸太や製材品の大部分が自由化されていますが、対象となる関税課税品目の主なものは、合板や集成材などの木材製品です。TPPには主要な木材輸出国が参加しており、日本が参加することになれば、国産材の需要拡大を進めている合板や集成材分野が大きな打撃を受けることは必至です。
さらに、中山間地域や山村地域の経済、雇用、森林の多面的機能の発揮に大きな影響を与えます。「再生プラン」で掲げた自給率50%以上の目標達成は著しく困難になり、プランの推進に逆行することは明らかです。
森林所有者や林業従事者は、そこに定住し、日本の国土に根ざして仕事をしています。山から人がいなくなるということは、森林が荒れ果て、国土が崩壊することを意味します。
私たちは、農・水産業の方々と協力し、歩調を合わせながら、私たちの立場で行動を起こしていこうと考えています。
(新聞「農民」2011.1.24付)
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