TPPで農村は崩壊する
民族の存亡にかかわる問題
茨城・石岡 JAやさと組合長
田村 和夫さんに聞く
TPP(環太平洋連携協定)に反対する世論が日増しに広がっています。TPPでどうなるのか、何が求められているのか。JAやさと(茨城県石岡市)の田村和夫組合長に聞きました。
日本の農業の現状は厳しさを増しています。米の生産費は、1俵(60キロ)あたり1万6400円余(農水省2007年統計)とされているにもかかわらず、東北では、21年産米の過剰在庫処理のために8000円の仮渡し金と聞いています。現在進行中の戸別所得補償政策も、多くの問題を含んでいます。
岩盤対策のかいもなく、米は価格の低落が進み、高齢化とあいまって農村が限界集落化していく現実があります。当然、農村の唯一の社会的基盤である自然景観の保全も、集落の維持も、まして里山の保持に至っては、一人二人の大規模生産者のみではできるものではありません。そしてその人たちも高齢化しているという現実もあります。
TPP等で自由化を推進しながら「日本農業の競争力を強化する」と、まことしやかに言う人がいますが、「零細な日本農業が諸外国と対等に競争できる」という前提自体がまちがっています。
ちなみに、やさと農協管内の耕地面積は、約5000ヘクタール強だと記憶していますが、オーストラリアやアメリカでは、大きな農家は、やさとの全耕地面積ぐらいを1戸の農家が耕作する規模と聞いています。そんな国から生物工学的な技術で遺伝子操作された、安価な農産物が大量に入ってきたら、いかに日本の農家が優秀でも、結果は火を見るより明らかです。
「GDP(国内総生産)比で1・5%にすぎない第1次産業のために、98・5%が犠牲になっている」という前原外相発言自体、都市と農村、生産者と消費者の対立をあおる構図であるように思います。
農協も国際化に立ち向かうために、一工夫も二工夫も必要です。私たちは、自分たちの農地を守り、地域の人たちや消費者のみなさんに安全な食を提供する使命があります。そのための準備として、農業生産法人の形で立ち上げを進めています。それによって、地域の雇用の一助になればと願っています。
さらに、やさと地域は、多くの有機農家が環境にやさしい環境保全型農業を実践しており、東都生協をはじめ、多くの消費者のみなさんにご愛顧いただいています。
加えて、そのなかに新規就農者のみなさんが毎年、1、2組ずつ研修生として、有機認証を受けた農協の有機ほ場で先輩農家から指導を受けながら、独立に向けて着実な歩みを続けています。
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東都生協のみなさんがJAやさとの「ゆめファーム」でオクラの収穫体験=2009年8月5日 |
今後も地域に展開する畜産農家、耕種農家、果樹農家や山林農家とのコラボレーションによって「有機の郷(さと)」をさらに発展させていきたいと考えます。
有史以来、農業を守れない国が栄えたためしがないと言われています。TPPの阻止は、民族の存亡にかかわる重大問題です。全国民的な運動にまで昇華させる必要があると考えます。
(新聞「農民」2010.12.13付)
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