「食と農」を読者の目線で
“分析センターの地道な努力に感銘”
西日本新聞編集委員 佐藤 弘さん
1961年生まれ、福岡県出身。
主な著作 「『農』に吹く風」(共著、不知火書房)、「食卓の向こう側(1)〜(10)、(12)(13)」(共著、西日本新聞社)、「農は天地有情〜宇根豊聞き書き」(西日本新聞社)など
取材や講演で全国かけめぐる
綿密な取材と読者の目線に立った記事――。「食と農」をテーマに、取材や講演などで全国を駆け巡っています。
中学生のとき、有吉佐和子の著書「複合汚染」で農業に目覚め、東京農業大学に進学。そこで深遠な「農」の世界にふれ、卒業後は、側面から農業を支援しようと記者を志し、西日本新聞社に入社しました。初めの12年は、取材とは無縁のシステム開発部に配属され、給与計算などコンピューターのプログラミングに従事していました。
35歳のとき配転で記者に。2000年から、21世紀の農業のあり方を描いた連載「『農』に吹く風」を担当し、ようやくスタートラインに立ちました。
3年後に再び連載のチャンスがめぐってきました。「『農』に吹く風」を手掛けた上司が編集局長になり、佐藤さんを呼んで、「新聞は都市の方ばかり見ている。しかし九州の7割は中山間地。もっと地べたに足のついた視点で、農、食、地域づくりに関する記事を書いてくれ」と指示されました。
「『農』に吹く風」の再開を提案すると、局長は、「食なら関係者は100%。農ではなく、食からいけ」。そして企画したのが、現在、第13部まで展開している長期連載「食卓の向こう側」でした。
|
佐藤さんが執筆した遺伝子組み換えナタネ自生の実態を報道する記事(西日本新聞) |
「当時は残留農薬や無登録農薬など、食の安全を問う事件が相次いでいましたが、農薬の最大の被害者は消費者ではなく生産者というのが問題意識。問題の根っこは消費にある。向こう側としたのは、そのためです」
新聞「農民」を取材の参考に
今年の春には、農民連食品分析センターの八田純人さんと博多港周辺を回り、遺伝子組み換えナタネ自生の実態を目の当たりにしました。「こんな身近なところにあることにびっくりするとともに、地道な努力で問題提起をしている食品分析センターの活動に感銘を受けました」
佐藤さんが大事にしているのは、いかにして社会を動かすか。「それには新聞連載だけでは限界がある。時間がたてば、感動や驚きは薄まっていく」。連載後には必ずシンポジウムを開催し、連載に登場した人物や、かかわった人々を招き、読者に、取材の感動を味わってもらいます。
福岡県・みのう農民組合(うきは市)が取り組む大豆畑トラストは、10年来の会員です。
「新聞は批判ばかりでなく、提案が必要。なんとかして、『生産者は消費者の健康に責任をもち、消費者は生産者の生活に責任をもつ関係』を足元につくりたい」
新聞「農民」に対しては「取材の参考にしています。これからも新しい告発と材料を提供してほしい」と期待を寄せてくれました。
(新聞「農民」2010.11.22付)
|