COP10を振り返って〈下〉
資金力をバックに迫る先進国
ビア・カンペシーナ政策提案の推進力
生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)の会期中、豊富な資金力にものをいわせて途上国を説き伏せようとする姿勢が、先進国や国際機関に目立ちました。菅首相は2012年までの3年間で20億ドル(1620億円)の途上国支援を表明。国連環境計画(UNEP)などは4年間に43億4000万ドル(3500億円)を増資する考えを示しました。
辛口の評価下す
日本政府について、生物多様性条約市民ネットワーク(CBD市民ネット)の吉田正人共同代表は「(2010年以降の)新戦略の議論の中では、合意されればそれで良いというような姿勢が目立った。ABS(遺伝資源の利益配分)に関しては、議長国として、先進国に偏り、全体をまとめ上げようとする努力が少々欠如していたように思う」と辛口の評価を下しました。
また、吉田氏は「長良川河口ぜき、沖縄・辺野古の米軍基地建設計画、長崎・諫早湾干拓事業などを推進しており、数多くの問題がある」と述べ、議長国でありながら、生態系を破壊する開発や公共事業を進めていることに疑問を呈しました。
NGOが本会議や作業部会、サイドイベントなどで活躍したのもCOP10の大きな特徴でした。CBD市民ネットの道家哲平さんと、ICSF(国際漁民支援共同体)のラミア・ラジャゴパーレンさん(インド)は本会議で、生物多様性を市場原理やビジネスに委ね、豊富な資金力で解決しようとする先進国に対して「母なる地球は売り物ではありません。どん欲な経済はいりません。必要なものは、そう、公正と正義と生物多様性です」と高らかに訴えました。
COP10には、国際的農民組織ビア・カンペシーナ(LVC)も各国から代表が来日。LVC生物多様性委員会ヨーロッパ代表のギ・カステールさん(フランス)、同委員会メンバーのコリーン・ロスさん(カナダ)、韓国女性農民会(KWPA)種子保全運動事務部長のシン・ジオンさんら、生物多様性や種子の保存の分野で活躍する人々が集結しました。
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各国代表に「食糧主権の確立を」と訴えるLVCのメンバー=10月29日、名古屋国際会議場 |
NGOが活躍
LVCと農民連は、国際フォーラムを開き、LVCインターナショナル調整委員のヘンリー・サラギさん(インドネシア)が「家族農業は生物多様性を守り、世界を養うことができる」と述べ、食糧主権の確立を訴えました。さらに、海外NGO組織、CBDアライアンスの戦略会議などで、積極的に発言。NGOの政策提案や運動の推進力になりました。
COP10では当初、自然界に人工的に手を加えて気候を意図的に操作する「地球工学」の導入が検討されていました。
LVCと農民連は、会議場内で2度の記者会見を行い、(1)地球工学のモラトリアム(一時停止)の実行(2)生物多様性の保護に市場原理を導入しない(3)生物資源や知識へのアクセスと利用は先住民や地域社会の事前の同意に基づくべきである―と主張しました。
国際政策NGO・ETCグループやLVCの働きかけにより、地球工学のモラトリアムが、今回も採用されました。
次回のCOP11は、2012年にインドのニューデリーで行われます。
(おわり)
(新聞「農民」2010.11.22付)
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