「農民」記事データベース20101115-949-06

COP10を振り返って〈上〉

 名古屋市で開かれ、179の締約国・NGOなどから1万3000人以上が参加した生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)は10月30日未明、生物遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)のルールを定めた「名古屋議定書」(骨子は別項)と、生態系保全のための世界共通目標「愛知ターゲット」などを採択して閉幕しました。途上国が自らの権利を主張し、NGOも会議場内外で活躍、国際的農民組織ビア・カンペシーナと農民連も重要な政策提案を行いました。13日間に及んだCOP10を振り返ります。
(勝又真史)


法的拘束力もつ議定書採択
生物遺伝資源の利益配分にルール

 「妥協した結果」

 最終日の29日、本会議が予定時間の午後8時になっても開かれず、開会したのは11時すぎ。参加者の表情にも疲労がみえるなか、午前1時半すぎにABS問題の議案が採択されると会場内は一気に活気づきました。

 しかし、「妥協した結果」(COP10議長の松本龍環境相)といわれるように、議定書自体は玉虫色で、あいまいな規定も多く、今後、議論の余地を残しました。

 ABS問題の核心は、医薬品などの材料になる生物資源の宝庫である途上国から、先進国の企業が勝手にその遺伝資源を持ち出し、特許にしてばく大な利益をあげる海賊行為(バイオパイラシー)に歯止めをかけ、遺伝資源に対する公正・公平な利益配分に法的拘束力をもたせることです。ABSは、COP10の最大の課題であり、「バイオパイラシーは終わりにすべきだ」(イエメンのアルサイディ大使)といわれるように、途上国にとって長年の悲願です。

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「名古屋議定書」採択を喜ぶ各国政府・NGOの代表(10月30日未明)

 今回、法的拘束力のある議定書が策定されたことは、重要な前進ですが、途上国が求めてきた議定書発効以前にさかのぼって適用させることや、遺伝資源の利用に対する情報開示などで、途上国の要求が退けられた内容になっています。

 途上国にとって

 一方で、遺伝資源から生じる「派生物」については、利益配分の対象になることは明記されていませんが、適用対象は「遺伝子をもたない複合物も含まれる」とされ、先進国の企業が途上国側と利用契約を結ぶ際に、利益配分の対象にできる余地が残されました。

 また先住民族や地域社会が長い経験のなかから獲得してきた「伝統的知識」については「地元民の慣習や規則に配慮する」との規定が設けられたのも前進面です。

 2020年までの世界共通目標については、「生物多様性の損失を止めるための効果的な緊急行動を起こす」という抽象的な表現にとどまりました。

(つづく)


名古屋議定書の骨子

 ▽遺伝資源の利用で生じた利益を(提供国にも)衡平に配分する。
 ▽議定書の対象に、遺伝資源を活用して人工的に合成した「派生物」は含めない。
 ▽遺伝資源の入手には、提供国から事前の同意を得る。
 ▽(薬草の使用法など)先住民の伝統的知識も利益配分の対象とする。
 ▽人や動植物が危機にさらされるような緊急事態では、病原体を早急に利用できるよう考慮する。
 ▽途上国に利益を配分するため国際的枠組みを設ける。
 ▽企業などが遺伝資源を不正利用していないか、各国がチェックする。
 ▽50カ国・地域の批准90日後に発効する。

(新聞「農民」2010.11.15付)
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2010年11月

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