「作況99」「平年作」?とんでもない!
佐久(長野)では近年にない不作
小林 節夫
先ごろ、今年の稲作の作況指数が発表され、長野県は「99」「平年作」とのこと。だが、現地の実情は大きく違う。
彼岸すぎに穂を手に取ってみるといつもより籾(もみ)が細いと思ったので、農協や業者のライスセンターで聞くと、どこでも「不作さ。10俵いかないよ」という。この辺はコシヒカリで11俵(10アール当たり)が普通で12俵は珍しくない。私の場合、豊作の年には田によっては13俵のこともあるが、今年は10俵を少し切れる。
夜温が高すぎた
私の経験では、出穂後20日間天気が続けば後の陽気はどうでも豊作だった。だが、今年は違う。
近年は温暖化が進んでいるし、8月下旬でもときに暑くて夜寝苦しいこともあるので、苗代づくりも田植えも1週間も遅らせたのだが、7月に入ってからの異常な高温で出穂(8月8日)が1週間も早くなってしまった。
これまで、昼間は30℃を超えても夜は浴衣でも涼しすぎるほどだったが、今年は明け方まで扇風機を使って寝たくらいだった。せっかく好天でも光合成でできた炭水化物が夜の温度が高ければ呼吸作用で消耗してしまうという初歩的なことが作況調査では考慮に入らないのだろうか。
作況指数への不信
私は農水省の作況指数に不信感を持つ。実情とかけ離れた作況指数について、かつて香川県であった話が思い出される。
ある年、農林水産省の統計事務所が作況を本省に報告したら、「四国各県の指数はもっといいのに、香川県だけ低いのはおかしい」といわれて「いい作況」に訂正して報告した――と、いうものである。
それから間もない1993年の大冷害の時には、農民連は7月以来の悪天候、とくに、8月になってからの低温に注目していた。
出穂の10〜15日前(花粉が作られる時期)に17℃以下になれば花粉ができなくなる。自家受粉の稲は不稔になる――これでは北東北では致命的な打撃を受けると心配で、全気象労働組合に頼んでひそかに速報値を教えてもらった。したがって8月半ばには事態の深刻さをつかんでいたが、大凶作は決定的だった。
ところが8月15日現在の作況指数はなんと「95」と聞いて、農民連は農水相に会い、「95どころか、壊滅的被害を受けている」と直言したのだった。
米価下落の弁解か
作況調査は、ある時期の稲の茎数、穂や籾の数を調べて済ませるのか。相変わらず決まった事項だけで作況を予測しているとしか思えない。統計だから同じ手法で繰り返さなければならないのか。農業は条件が毎年違うのだから、特別の場合、決まっただけの項目にとどまらず、重要な要素を考慮に入れることはできないだろうか。
人員と予算を削り、地方の統計事務所や食糧事務所を整理統合することしか頭にないのではないか。義務でもないミニマムアクセス米を輸入し毒入りのコメを消費者の口に入れるとか、狂牛病の「違反部位」の牛肉が何回見つかっても輸入禁止にしないなど――こういう事実を振り返ると、今年の作況についても深い疑念を抱かざるをえない。事実を究明すべきだと私は思う。
ライスセンターでの話題は米価より作況指数で、みんな不信を募らせているのだ。「平年並み」という数字を根拠に「だから米が余るのだ、米価が下がるのはやむを得ない。さらに減反を強化せよ」という問題にすり替えられることを私は懸念する。
(新聞「農民」2010.10.25付)
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