本の紹介
富山和子著 水と緑と土
文明の基礎としての農業に注目
今日でも新しい著者の問いかけ
本書の初版が刊行されたのは1974年。「日本の米カレンダー」で知られる富山さんの、自然と人間をめぐる最初の著作ですが、私たちに投げかけられる問いは、今日に至ってもその新しさを失わないばかりか、いよいよ切実です。
日本では明治中期に治水事業の思想が切り替えられ、以後、高い堤防によって洪水をいち早く海に「捨てる」ことを旨として河川改修が進められました。それまで人々は、ときどきの洪水に悩まされながらも川と折り合いをつけ、その恵みによって田畑をひらき、地域の自然条件に対応した生活と文化を築いてきました。しかし、堤防やダムによって川は周囲の自然や社会と切り離され、人々の生活の中にあった水とつきあう知恵も、次第に失われていきます。
やがて発展する都市は水を「消費」し「捨てる」生活様式を広め、人々はますます川と疎遠になります。また経済の高度成長は、水とともにその源である森林をも収奪し、荒廃させていきますが、それがまた水害の危険をもたらし、さらに巨大なダムと堤防を求めるという悪循環も生じました。
地球環境の危機がだれの目にも明らかになってきたいま、自然に対応した生活をいかにして取りもどすのか。文明の基礎としての農業にとくに注目した本書は、農民運動の新しい役割をも照らし出しています。
▼中公新書
▼760円+税
(新聞「農民」2010.10.4付)
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