概算要求
本格実施の戸別所得補償
これでは期待と不安が失望に
関連/国を動かした活動に驚き
2011年度の農林水産関係の概算要求が発表されました。総額は2兆4875億円で前年度より1・5%増。目玉は、本格実施となる戸別所得補償で、7959億円を充てています。しかし、マニフェストで戸別所得補償に「1兆円が必要」と公約していた民主党。これではマニフェスト違反です。農水予算は減り続け、昨年も財務省から横やりが入り減額されましたが、今年は必要額を確保できるのか。農家の間では、自由化推進と米価暴落に無策の民主党農政に対し、戸別所得補償制度への期待と不安が「失望」へと変わりつつあります。
労賃8割しか
今年度から、水田作を対象に戸別所得補償モデル事業がスタートしましたが、水田作については来年度も制度の仕組みは変わらず、同額の交付金となっています。農民連はこのモデル事業について、労賃を8割しかみないなど補償水準が低いことや、全国一律の交付に問題があると指摘してきましたが、いっこうに改善しようとしていません。
来年度からの本格実施にあたっては、水田作に加えて、畑地作の麦・大豆・てん菜、でん粉原料用ばれいしょ、そば、なたねが対象になります。畑作物の交付金は数量払いと面積払いの併用で、いずれか高い額が支払われます。面積払いの交付単価は10アールあたり2万円。数量払いの交付単価は、労賃10割を含めた全算入生産費をベースに標準価格を算定し、販売額との差額が支払われます。(交付単価‥小麦60キロあたり6360円、大豆60キロあたり1万1430円、てん菜1トンあたり6140円、でん粉原料用ばれいしょ1トンあたり1万1600円)また、品質加算も取り入れられ、良いものをつくれば手取りが増える仕組みです。
交付単価の算定にあたって、労賃10割を含めた全算入生産費をベースにしたことは、要求運動の大きな成果です。ではなぜ、米の場合は労賃の8割しかみず全算入生産費ではないのか、あらためて問われます。
行き詰まる恐れも
一方、今年度、麦・大豆などの交付単価の減額を補った「激変緩和措置」(260億円)は、「その他作物への助成」(204億円)と統合して、来年度には「産地資金」(430億円)となり、地域振興上重要な作物への支援などに交付します。また、都道府県の判断で畑地も対象になります。
農水省は畑作物の戸別所得補償の財源を、概算要求基準を超えて要望できる「特別枠」に盛り込みました。この「特別枠」は民主党内の「政策コンテスト」を経て、最終的には首相の判断で決めるため、予算が配分されない可能性もあり、その場合には、制度自体が行き詰まる恐れもあります。
米価暴落にみられるように、再生産できる農産物価格が保障されなければ、戸別所得補償だけでは日本農業は崩壊しかねません。
食の安全・監視市民委員会
農民連食品分析センターを見学
「食の安全・監視市民委員会」のメンバー7人は8月24日、農民連食品分析センターを訪れ、分析機器の見学と懇談を行いました。「同委員会」は、市民の立場から政府に対して提言を行い、食品関連事業者や行政を監視して食の安全性と信頼性を確立することを目的として2003年に設立された市民団体です。
最初に分析センターの石黒昌孝所長、八田純人主任研究員から、同センターの取り組み内容や実績の紹介がありました。残留農薬、重金属、米の品質、遺伝子組み換えなどで国の政策を動かし、残留農薬基準の設定、食品表示制度の改正などに大きな影響を与えていることに感嘆の声があがりました。
参加者から、分析機器の精度や性能、分析上の苦労についての質問があり、同センターのメンバーはていねいに答えました。
懇談では、参加者から「行政や企業に対抗し、国民の食の安全を守る役割を」「分析結果を広く公表し、若い世代に対して食について考える材料を提供してほしい」など、分析センターの活躍に対する期待や賞賛の意見、感想が出され、日本人の食生活や食の安全に対する問題点などについて話題になりました。
見学後、感想を述べた市民委員会の神山美智子代表(弁護士)は「少ない人数でたいへんな仕事をされていることがよくわかりました。消費者が頼りにできる良心の礎のような研究所です。これからも、消費者の味方としての役割を存分に発揮して活躍してほしい」と期待を寄せていました。
(新聞「農民」2010.9.27付)
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