「農民」記事データベース20100830-938-07

小学校に“農業科“

福島県喜多方市 全国初

 農業高校の教員やそのOB、研究者らでつくる全国農業教育研究会は8月7〜9日、喜多方市熱塩加納町で「子どもを育てる地域と農業の力とはなにか〜小学校の『農業科』と学校給食を支える地域に学ぶ」をテーマに、シンポジウムや現地見学会、分科会を行い、全国から約100人が参加しました。
(赤間 守)


農を通じて
子どもの豊かな育ちを
地域全体で支える

 はじめ3校から全18校中17校に

画像 「蔵とラーメンのまち」として知られる喜多方市では、3年前に「構造改革特区」の制度を使って全国で初めて小学校の教科に「農業科」を設置しました。当初3校からスタートした「農業科」は、いまでは18ある小学校のうち17校で1年生から6年生まで年間45時間余、1年を通じて土づくりや種まき、除草、そして収穫・調理まで農業を学んでいます。先生は農業のことには詳しくないので、地域の農家が「支援員」としてボランティアで子どもたちに教えています。

 「熱塩加納における食と農による子どもの学び」と題したシンポジウムでは、熱塩小学校の6年生12人が、スライドを使いながら農業科の学習活動をみんなで発表しました。

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学習発表する熱塩小の児童たち

 収穫の喜び、食の感謝はいまも

 野菜が嫌いだったが、自分たちが育てた野菜を食べそのおいしさに感激して、好きになった子。支援員の(小林)芳正さんから「私たちは野菜のいのちをいただいている」という、学校の授業では学べないことを教えてもらって感動した子。

 作物を収穫し食べる喜びを地域の人たちにも分けたいと、小豆ともち米で赤飯を作り一人暮らしのお年寄りに届け、「涙を流して感謝された」と発表した子。ヴィラ・イナワシロ(猪苗代町のリゾートホテル)の総料理長、山際博美さんが枝豆でアイスクリームを作ってくれ、「ほっぺたもいっしょにとろけそうなおいしいアイスでした」と笑顔の子…。

 そして「私たちは自然の恵みをもらい、農作物を育てることでたくさんのいのちをいただいていることを知りました。そして人に感謝する心を持つようになりました。収穫したときの喜び、それを食べたときの感激は忘れられません。農業科で学んだことをたくさんの人に伝えていきたい」と、子どもたちは元気いっぱいです。

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支援員の小林芳正さん

 「農業科」に意気込む農家支援員

 「この子どもたちがかわいくてしょうがない」と言う熱塩小学校の鈴木卓校長は、「保護者や地域の人たちには『農業科で農業の後継者を育てているのではありません』と言っています。私は農業のことは何も分かりませんが、食と農は車の両輪だと思います。農業科を通じて、自然との共生、助け合いや協力する心、そして熱塩が大好きという子どもを育てたい。農業科で学力が落ちたとは言われたくない。農業科を通じて、人前で話す力をつけるのも学力のひとつ」と、農業科のねらいについて話しました。

 また、支援員をしている地元の農家、小林芳正さんは、「農薬や化学肥料を使わないで、子どもたちと米や野菜を育てています。子どもたちに鍬の使い方を教えることも大切かもしれませんが、農業科の真の目的は、人間形成の基盤づくりではないかと思っています。農業を通じて慈しむ心、優しさ、思いやりなど、人として必要なものを身につけていってほしい。『毎年、子どもたちの心の中にどんな種をまいたらよいか』と考えて取り組んでいますが、その種が10年、20年かけて芽を出してくれるだろう。おとなたちは、長い目で子どもたちの成長を見守る気持ちを持つことが大切です」と、農業科に取り組む意気込みを話しました。

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“私たちが作ったトウモロコシは、甘くておいしいよ”(喜多方市のホームページから)

 農が人間を育てていく時代に…

 シンポジウムのまとめで、福島大学特任教授の境野健兒(けんじ)さんは「喜多方市の実践は、農を通じて子どもの豊かな育ちを地域全体で考えていこうという試みであり、農の営みを子どもの育成に活用することの大事さを示しています。農が人間を育てていく、そういう時代になってきたのではないか」と、述べました。

 農業科を取り入れている小学校の中には、熱塩小学校のように成果をあげつつあるところもあれば、まだ緒に就いたばかりのところもあります。農薬や化学肥料を使っているところもあります。農業科に疑問の声をあげる保護者も少なくありません。「地域とともに農の力で子どもを育てよう」という喜多方市の挑戦は、まだ始まったばかりです。

(新聞「農民」2010.8.30付)
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2010年8月

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