本の紹介
伊澤良治・佐藤幸也・二井宿小学校教職員 編著
いのちを育みこころを耕せ
山形県二井宿小学校食農教育のめざすもの
農業には子どもを育てる力がある
――給食野菜5割自給の食農教育
本書は、山形県高畠町立二井宿小学校で取り組まれている食農教育の実践記録です。2009年度の毎日農業記録賞優秀賞を受賞しました。
2006年4月に校長として赴任した伊澤良治さんは、「給食野菜年間使用5割自給の学校づくり」を提案します。これは、「農業には子どもを育てる力がある。生きる力とは、自らの手で食べものを育てる力」との考えからです。
子どもたちはまず、「食料自給率とは何か」から学習し、学年ごとに野菜を数種類ずつ育てました。3年生以上は米づくりにも挑戦。農薬を使うかどうかも考え、使用しないということになり、数回の草取りもしました。そして、米とダイコン、カボチャが100%自給、そのほかの野菜も5割を超え、給食の食べ残しはほとんどなくなりました。
大豆を使った納豆やみそ、豆腐づくりには、知恵や技を持った地域の人たち、子どもたちのおじいさんやおばあさんが指導のため学校に来るようになりました。実際にワラを使った納豆づくりを手伝ってくれたおばあちゃんたち。「子どものときはあんまり学校さ、えがんにぇがった(いけなかった)。子んもりこ、さんなくてな(子守りしなくてはけないので)。いまは学校さえって楽しまんなえ(学校に行って子どもに教えることが楽しい)」と話しています。野菜作りを指導してくれるのは「農の名人」佐藤吉雄さんです。吉雄さんは、毎日学校に来ます。子どもたちはもちろん、先生からも質問攻めです。
伊澤校長のほか教職員のみなさんが書いたこの本には、こんな話がたくさん載っています。著者の一人、宮城学院女子大学の佐藤幸也教授は次のようにまとめています。「全国いっせい学力調査のような人間的むごさが教師の魂をむしばんでいる時代にあって、二井宿では地域と教職員が『子どもは天からの授かりもの』という心おだやかな眼差しを向けている。そのおとなに対する信頼感は、子どもたちが競争にさらされることがあっても、子どもたちの良心と誇りをまもっていくことだろう」と。
▼定価 1600円+税
▼発行 家の光協会
(新聞「農民」2010.8.30付)
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