農家の思いを面と向かって
都市住民参加型市場
マルシェ・ジャポン
農産物のよさ、旬の感動など伝える
“つなぎ手”の役割果たす
ビルが林立する大都会の中で新鮮な農産物にじかに触れる場所――。たくさんの人でにぎわうスポットや大都市の中心街で、仮設テントなどを張って農産物を直接販売する都市住民参加型市場「マルシェ・ジャポン」のことです。
マルシェ・ジャポンは、昨年5月に農水省が公募した「仮設型直売システム普及事業」から始まり、9月には各地で産声をあげました。今では政令市を中心に全国で取り組まれています。
マルシェ・ジャポン全国事務局の川久保篤副事務局長は「食料自給率41%、後継者不足など農業をとりまく環境が厳しいなか、直売所がはやり、生産者による直接販売など新たなマーケットの開拓が進んでいます。対面販売を通じて、消費者にも農産物のよさを知ってもらうことが目的です」と説明します。 東京都武蔵野市の丸井吉祥寺店前。吉祥寺駅の利用者や買い物客、通行人らでにぎわっています。ここで「ハピ・マルシェ」を担当するのは、マルシェ・ジャポン運営団体の一つ、株式会社野菜ビジネス。ハピ・マルシェの青木姿穂子事務局長は「国産の農産物にこだわり、旬の感動を消費者に伝えたい。生産者自身が店頭に立ち、直接生活者と交流する場を提供するだけでなく、生産者と消費者との懸け橋として、食材のもつ特徴を引き出しながら、食べる楽しみを伝える『つなぎ手』の役割もめざしています」と話します。
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丸井吉祥寺店前で開かれた「ハピ・マルシェ」 |
ハピ・マルシェでは、各産地のブースごとに野菜、果物、加工品が並び、買い物客と直接対話しながら農産物をアピールしています。
和歌山県田辺市で、梅の栽培から加工・販売まで一貫して行う不動農園のブースでは、青梅の甘い香りが漂い、通行人が次々と立ち寄ります。同農園の不動惠さんは梅の説明に大忙し。「お客さんとの距離感が近く、じかに梅のよさを伝え、声を聞けます。通信販売と違って、香りを感じてもらえるのがいいですね」
千葉県の房総食料センター(横芝光町)も多くの青果を供給。田山修司常務理事は「六本木やお台場など農業とはあまり縁のないところでやることで、産地のこと、野菜のことを多くの人に知ってもらえる。ただ並べて売るだけでなく、伝えることができるのが魅力です」と言います。
補助金がなくてもがんばる意気込み
始まりからわずか1年足らずで各地に広がり、生産者にも消費者にも大好評のマルシェ・ジャポン。しかし民主党政権の事業仕分けで「廃止」と判定されました。マルシェ・ジャポンの川久保副事務局長は「マルシェ自体が廃止になったわけではない。『いい取り組みだからぜひ続けてほしい』というみなさんの声に励まされて、補助金なしでも続けていきます」と意気込みを語ります。
マルシェ・ジャポンは、消費者が実際に農家に足を運び、農作業を手伝いながら、農業の理解と生産者への手伝いを目的とした「援農」と、マルシェや直売所での販売を手伝う「援売」の実施で、生産者の支援を行っています。農業への関心の高まり、農家と消費者との交流の広がりが、マルシェの取り組みを支えています。
(新聞「農民」2010.7.12付)
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