「農民」記事データベース20100712-932-02

全国の皆さん ご支援ありがとうございます

口蹄疫(こうていえき)

宮崎県農民連書記長 来住誠太郎

 宮崎県農民連は6月30日、口蹄疫ワクチンの接種により、家畜が殺処分となった組合員のみなさんに、全国から寄せられた義援金と激励メッセージを届けました。


40年かけて増やしてきた牛が
わずか1時間でいなくなった
親指で涙ふき、言葉をつまらせ

 母牛30頭、子牛20頭を飼っていた繁殖農家は、「皆さんに迷惑をかけて本当にすみません。ありがとうございます」と、涙を親指でふきながら話しました。「ワクチンを打ってからがながく、つらかったです。殺処分が行われるまでは、死刑囚になったような気分で、朝起きると吐き気がする日が続きました」と言います。そしてカラになった牛舎をつらそうに見ながら「こんなに静かで牛の鳴き声が聞こえないなんて。こんな日が来るとは夢にも思わなかった。皆さんの『がんばってね』という言葉が初めはつらくて、最近やっと慣れてきました。もう少し落ち着いたら、再建に向けて頑張っていきます」と、やっとほほ笑みながら話されました。

 母牛65頭、育成牛75頭の繁殖農家は、「本当にありがとうございます」と述べ、「6月28日に殺処分が終わり、やっと少し落ち着きました。しかし40年かけて少しずつ増やしてきた牛が、1時間でいなくなってしまいました。泊まり込みで手伝ってくれた息子も、今日、自分の家に2カ月ぶりに帰って行きました。夫婦2人だけなら廃業も考えますが、息子もいるし、来年1月くらいから牛を少しずつ増やしていきたい」とホッとした顔で話していました。

 次に繁殖農家のTさん宅に到着すると、夫婦で牛舎の片づけをしていました。「ついさっき全部の牛が運ばれていったところ」と寂しそうに話し、義援金と激励メッセージを手渡すと、「ありがとうございます。本当に皆さんにお世話になるばっかりです。出荷できないから牛舎はいっぱいになるし、子牛も大きくなった。今日のお昼には出産もあった。でも生まれてすぐに(殺処分になって)…」と言葉にならないようでした。「すぐには再開できないでしょうね。ウイルスがどこにいるかわからないし不安です」と話されました。

 最後に訪問した母牛9頭、子牛4頭を飼っていた繁殖農家は、「みなさんが心配して下さって、ありがとうございます。集落の92歳のおばあちゃんが心配して寿司(すし)を届けてくれた時は、涙が出ました」と話していました。そして、同じ集落の人が「明日はもう牛たちがいなくなってしまうから」と、牛舎の写真を撮ってくれたそうです。その写真を見せてもらいましたが、手入れが行き届き、毛並みがキラキラと輝く牛の姿や、埋却地に運ばれるところまで撮っていました。

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殺処分される牛をぼう然と見送る農家のお母さん。地面は石灰で真っ白

 「牛は自分の死を悟るというが、本当でした。普通は私が牛舎の前を通ると“モー、モー”って鳴くけど、その日はまったく鳴きませんでした」と目を真っ赤にし、「夫が退職して、やっと二人でのんびりと農業をやっていけると思ったのに、その夢を奪われました。再建はすぐにはできないけど、米や野菜作りは頑張っていきたい」と話していました。

 現地の農家は、いまも口蹄疫ウイルスを媒介してはならないと、外出や訪問を極力差し控えています。そのため隣近所との交流もままならず、農家は孤立し、たいへんな不安を抱えています。宮崎県農民連は、今後も農家を激励しながら、相談にのっていくことにしています。引き続き全国のみなさんのご支援をお願いします。

(新聞「農民」2010.7.12付)
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2010年7月

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