シリーズ
COP10(第10回生物多様性条約締約国会議)
MOP5(第5回カルタヘナ議定書締約国会議)
に向けて
関連/みんなで作ろう、もの言う「農民」
「発見」の定義
生物多様性年記念講演会の基調講演から
詩人 アーサー・ビナードさん
私は生まれてから15歳までアメリカ・ミシガン州で過ごし、それからオハイオ州に引っ越しました。五大湖のすぐそばです。五大湖は、氷河時代の置き土産です。
その中の一つ、エリー湖には、ケリーズ島という石灰岩の島があります。そこでは氷河に削られてできた、工芸品のような石灰岩を見ることができます。かつては何キロにもわたってその造形美を満喫できたのですが、ケリーという人が移り住んできてから、石灰岩が相次いで削り取られて、今では無残な姿をさらしています。石灰岩は、セメントの原料として、デトロイトの建物、シカゴの道路などに使われたのです。
発見から27年で絶滅
先日、北海道を訪れたときに北海道開拓記念館(札幌市)に立ち寄りました。中に入ると、マンモスの骨など、かつて北海道にいたといわれる動物の展示品があり、その中にステラー海牛(かいぎゅう)の化石もありました。私は中学生のとき、ステラー海牛について調べ、「発見」という言葉の本当の意味を教えてもらいました。
1741年にデンマークのベーリング率いる探検隊が無人島で座礁しました。島の周りの浅瀬には、体長8メートルもの海牛が群れをなしてひたすらコンブを食べていました。探検隊の一人、ゲオルグ・シュテラー(ステラー)=ドイツ人=の名をとって、ステラー海牛と名付けられました。
ステラー海牛は、遭難した乗組員の空腹を満たすための食料源になりました。1頭が傷つけられると、ほかの仲間も寄ってくるという習性が利用され、乱獲されました。
1768年に「まだ2、3頭残っていたので殺した」と報告されたのを最後に、姿を消してしまいました。発見からわずか27年で絶滅したことになります。ステラー海牛にとって、「発見」とは「絶滅」と同意義だったのです。
同様に「開発」「開拓」などという言葉も、肯定的な意味で使われていますが、どうでしょうか。絶滅したステラー海牛の仲間で南の海に生息するジュゴンは、沖縄県近海のごく限られた地域で力強く生き残っています。
ところがジュゴンにいま、「再編」という名の下で、埋め立てと米軍新基地移設という新たな危険が迫っています。絶滅させないためにも、名護市辺野古への米軍基地建設を阻止したいと思っています。
私の“不買運動”は…
ほかに日本語の乱れとして目につくのが、「エコカー減税」です。「エコ」という言葉は、「環境にやさしい」という「エコロジー」の意味もありますが、「経済」という意味の「エコノミー」もあります。自動車そのものが環境破壊マシーンです。「環境にやさしい環境破壊マシーン」ということになります。ここでの「エコ」とは「エコノミー」のことではないでしょうか。
日本の国会は英語で「ダイエット」です。日本に来たとき、「国民にやせる思いをさせているからかな」と思ったことがあります。今やダイエットもやせるための商売となりつつあります。
戦後、ファストフードの普及により肥満が増えました。私は、ファストフードを絶対に利用しません。また電気を大量に消費する自動販売機も利用しません。
こうした私の不買運動、つまり「マイボイコット」に取り組んでいます。否定だけれどもポジティブ(肯定的)に手を切る、積極的で前向きな楽しい「マイボイコット」によって、生物多様性や環境を守る活動、遺伝子組み換え食品に反対する運動に取り組みたいと考えています。
(「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」主催の生物多様性年記念講演会=5月25日、東京都内=での基調講演から)
(新聞「農民」2010.7.5付)
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