「農民」記事データベース20100705-931-11

本の紹介

張本 勲 著
もう一つの人生−被爆者として、人として


名バッターが語る――「アッパレ!」でさわやかな生き方

画像 大リーグで活躍するイチローや松井秀喜には「アッパレ!」、緩慢なプレーには「喝だ!」―毎週日曜日の朝に、小気味良い声をテレビのニュース番組(スポーツコーナー)で響かせているのは、元プロ野球の大選手、張本勲さんだ。

 張本さんは、大阪の浪商高校から東映フライヤーズに入団し、新人王をはじめ首位打者7回、通算安打数3085本など数々の記録を打ち立て、いまもさん然と輝いている。張本さんは韓国籍と思っていたが、この本を読んで、小さい時から「朝鮮は古い歴史を持った誇りある国」と母から教えられ、「間違ったことは間違い」と言える人間として成長してきたことが「もう一つの人生」の背景にあったことを知った。

 東映フライヤーズで活躍していたころ、郷土の英雄・力道山と兄弟のように付き合っていたとき、力道山が自室のラジオ(短波放送)で朝鮮の音楽を聞いているのを見て、「何もこそこそ聴くことはないのでは」と言ったとたん、力道山にいきなりぶんなぐられ、「日本の植民地時代に、わしら朝鮮人は虫けらのように扱われた。隠していかないと生きていけなかったんだ…」と言われ、自分の不明を恥じたという。

 小さいころに事故で右手をやけどし、不自由な身にもかかわらず、熱心なコーチの指導や血のにじむ努力でハンデを乗り越えたことや、引退したある日、打撃の神様と言われた川上哲治元巨人軍監督にその手を見せたところ、「おまえ、その手で…」と涙ぐんだことなど、人生の泣き笑いや重みのある歴史問題などへの思いがいっぱい詰まった本だ。

 最後に張本さんが熱く語っているのが、5歳の時に広島で被爆したこと。美人で自慢の姉が原爆で亡くなり、張本さんは「8月6日はないほうがいい」と思っていたが、ある少女の手紙をきっかけに原爆資料館を訪ね、核兵器廃絶のために平和の語り手になることを決意する。機会があれば、イチローや松井選手にも話をするという、なんとも「アッパレ!」でさわやかな生き方が伝わってくる。

(埼玉農民連 松本慎一)

(新聞「農民」2010.7.5付)
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2010年7月

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