「農民」記事データベース20100531-926-01

口蹄疫

農民連が政府要請

 宮崎県で発生した口蹄疫(こうていえき)のまん延が止まりません。被害は未曽有に広がっています。宮崎県農民連、農民連本部、畜全協、農民連ふるさとネットワークは5月19日、日本共産党宮崎県地方議員団、全国商工団体連合会とともに、農水省、厚生労働省、経済産業省、総務省、財務省に対策を要請。5月20日には白石淳一会長を本部長、村尻勝信副会長を事務局長とする「口蹄疫対策本部」を立ち上げ、農家の要望や情報の収集、政府への要請などに取り組んでいます。


 「一刻も早く感染をとめてほしい。ところが死がいを埋める埋却地が確保できないために殺処分が進まず、感染した農場がウイルスの増殖工場になっている」と涙ながらに訴えたのは、もっとも発生数の多い川南町町議会議員の内藤逸(いつ)子さん。

 1951年に制定された家畜伝染病予防法(家伝法)では、埋却地の確保は農家が自分でしなければなりません。しかし川南町をはじめとするこれらの発生地域は、戦後に開拓された畜産農家が密集する地域で、牧草地などのない農家も多く、戦後農政で一貫して大規模化が推し進められてきたこともあって、家伝法では実態に合わなくなっています。現地では、「国有地の提供、埋却適地の買い上げなど、国の責任で埋却地を確保し、一刻も早く防疫体制を整えてほしい」という悲痛な叫びがわき起こっています。

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舟山政務官(右端)に要請書を手渡す宮崎県農民連の来住誠太郎書記長(左端)と村尻さん(左から2人目)

 要請のなかでは、国の防疫対策の遅れと不手際に「現地の緊迫した状況をまったくつかんでいない」「現場の要望に応えた支援になっていない」「自衛隊の重機も大きすぎて道路を通れず、町役場の駐車場にとまったまま。県や政府内の情報の共有はどうなっているのか」という強い批判もあがりました。現地ではきちんとした情報公開を求める声も高まっています。

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川南町役場の駐車場にとめられた自衛隊の重機。20日まで1回も出動せず、強い批判の声が…。(撮影:内藤逸子さん)


一刻も早く感染とめよ

国の責任で再建できる補償を

 小規模農家にも深刻な打撃が

 農家の経営再建への不安も日増しに高まっています。政府は「殺処分となった農家には全額補償する」と発表していますが、何をどれだけ補償するのか、明らかにしていないため、「もうこれで廃業する」という畜産農家が続出しています。

 内藤さんは「農家は出荷適期まで育ててから販売する。出荷適期前の時価での補償では再建できない。殺処分になった農家は、ゼロではなく、マイナスからの再出発になる。子どものように育ててきた牛や豚を、こんなかたちで一気に失う農家の苦しみをわかってほしい」と訴えました。

 また宮崎県は、松坂牛や神戸牛といったブランド牛の素牛(もとうし)となる子牛を、全国の肥育農家に供給する畜産県ですが、これらの子牛を生産する農家の多くは、高齢化した小規模農家です。宮崎県出身の村尻勝信農民連副会長は、「今回の口蹄疫被害の深刻さは、殺処分頭数の膨大さもさることながら、こうした小規模農家の家畜にまで感染が広がり、打撃を与えていること」と指摘します。

 長い年月をかけて選抜・育成されてきた優秀な種雄牛は「宮崎の宝」ともいえる牛ですが、西都市に緊急避難させていたエース級の種雄牛6頭のうち、特に優秀だった「忠(ただ)富士」にも感染・殺処分が広がっており、関係者に大きな衝撃を与えています。

 宮崎県農民連は口蹄疫の発生以降、電話とファクスを駆使して畜産農家の相談に乗り、激励しながら声を集めていますが、「セリの中止で出荷適期を逃し、値段が下がった」「人工授精ができない」など、感染していない農家にも損害は大きく広がっています。

 村尻さんは農水省への要請で、「今、一番求められているのは、疲労し、絶望している畜産農家に“再建できるまで国が責任をもって損害を全額補償する、だから農業をやめないでくれ”と、明確な姿勢を示すことだ」と強く求めました。

 要請に応対した農水省の舟山康江政務官は、「今までにない事態であり、前例にとらわれず、現場の声を踏まえて対応したい」と回答しました。

 必要対策すべて従来法は不十分

 政府・民主党が特別措置法制定の準備に入っていることが報道されています。収入の絶たれた被害農家の当面の生活保障、埋却などの防疫対策、農家の再建支援など、求められている対策すべてが従来の規定では不十分なことから、すべての被害農家の損害が救済される特措法の制定が求められています。

 大分県農民連も、20日、県に対し、口蹄疫対策について要請しました。


宮崎県の畜産農家に支援を

口蹄疫対策本部が呼びかけ 農民連

 4月9日に宮崎県内で発見された口蹄疫は、5月23日現在、193例にも及び、殺処分対象になった牛や豚は14万4000頭を超え、政府の対策本部は、19日に半径10キロ圏内のすべての牛と豚にワクチンを接種の上、殺処分して感染拡大を防止すると発表しています。この10キロ圏内には農民連の会員もいます。

 今日の事態は、宮崎県の畜産を壊滅的な状況に追い込むだけでなく、地域経済にも大きな打撃を与えています。現地では、必死で防疫対策に取り組んでいますが、移動禁止によって収入は途絶え、再建のめども立たないまま不安な日々を余儀なくされています。

 今回の口蹄疫による被害は、宮崎県だけの問題ではなく、全国の畜産農家、消費者にも大きな不安を与えています。

 農民連は、政府に万全の対策を要求するとともに、苦難に直面している宮崎県の畜産農家を物心両面から支援するために、全国のみなさんに義援金へのご協力を呼びかけます。どうぞよろしくお願いいたします。

▼義援金振込口座

銀行名  ゆうちょ銀行 総合口座
口座番号 10030‐61671711
口座名  農民連災害対策本部

(新聞「農民」2010.5.31付)
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2010年5月

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