「農民」記事データベース20100419-921-01

輸入自由化推進しながら
食料自給率50%かかげた
新「基本計画」

財源の裏付けない個別所得補償事業
「来年度からの本格実施」明記できず

関連/「基本計画」とは…


民主党農政に現場から
不安と期待はずれの声

 鳩山内閣は3月30日、今後10年間の農政の方向を示す新たな「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定し、食料自給率(カロリーベース)を「2020年度までに50%」にするという目標をかかげました。

 新「基本計画」は、自民党政権下での規模拡大・「担い手」選別政策から、「農業生産のコスト割れを防ぎ、兼業農家や小規模経営を含む意欲あるすべての農業者が将来にわたって農業を継続し」「再生産可能な農業経営の基盤を作る」とするなど、政策の転換が見受けられます。しかし、食料自給率50%実現の柱となる戸別所得補償事業に農村の現場からは不安と期待はずれの声があがっており、国民は食料自給率向上と相いれない輸入自由化をさらに推進する民主党農政に失望しています。

 所得増加には結びつかない

 新「基本計画」では、食料自給率の目標実現のために、(1)戸別所得補償制度の導入(2)「品質」「安全・安心」といった消費者ニーズに適った生産体制への転換(3)6次産業化による活力ある農山漁村の再生の3つをあげています。しかし、4月から受付申請が始まった米戸別所得補償モデル事業・水田利活用自給力向上事業は、60キロあたり1万3703円という基準生産費の低さや地域性を考慮しない「全国一律交付」、1年限りの激変緩和措置など、とても所得増加に結びつくものにはなっていません。さらに、米の需給と価格の安定に責任を持たないままでは、新たな米の買いたたきの引き金となり、米価の下落は避けられません。

 責任を負わない増産は夢物語

 しかも財務省が難色を示したことから、新「基本計画」に戸別所得補償の「2011年度からの本格実施」を明記できず、財源の裏づけがないなど、大きな不安を抱えています。すでに今年度予算で、米モデル事業などの財源(約5660億円)をねん出するために、土地改良や農業共済などの予算に大ナタをふるい、土地改良事業が中止に追い込まれたり、農業共済組合の人件費が大幅にカットされるなど、いわば「共食い」予算となっています。

 食料・農業・農村政策審議会企画部会に提出された「50%が達成された場合の財政負担(試算)」(表)は約1兆円程度とされ、現行の自給率向上のための予算、8000億円から2000億円程度の増額で食料自給率を10%もあげることが可能というものでした。素人目にも「本気か?」と疑う数字で財務省をだませるはずはなく、「2011年度からの本格実施」に“待った”がかかったかっこうです。

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 これに対して民主党の国会議員は3月30日に開いた農林水産政策会議で、「忸(じく)怩(じ)たる思いだ。地元に伝えると、本格実施ができるのかという農政に対する不安や不信の声が聞こえた」(石山敬貴衆院議員)や、「閣議決定とマニフェストはどちらが重いのか、国民は見ている。地元からはマニフェストはそんなものかという意見がある」(福島伸亨衆院議員)などと述べ、嘆き節が聞こえてきます。

 また「50%達成」のために、米粉用米を現状の0・1万トンから2020年度には500倍の50万トンに、飼料用米を0・9万トンから70倍の70万トンに、小麦も88万トンから2倍以上の180万トンに増産する生産目標を掲げました。しかし、政府が責任を負わずに農家に販売先を見つけさせるやり方や、財源の裏付けもない新「基本計画」の大増産計画は、夢物語といわざるをえないものです。

 鳩山“構想”では日本農業は崩壊

 一方、食料自給率低下の原因となってきた輸入自由化に、ストップをかけるどころか「推進」の立場を崩していないのは、新「基本計画」の最大の問題です。

 EPA(経済連携協定)やFTA(自由貿易協定)については「食の安全・安定供給、食料自給率の向上、国内農業・農村の振興などを損なうことは行わないことを基本に取り組む」と言い訳していますが、自給率の向上や農業の振興を損なわないEPA・FTAなどありえません。

 交渉中の日豪EPAに加えて、日中韓FTAを鳩山首相の“肝いり”で共同研究が始まり、さらに「新成長戦略」ではアメリカやオーストラリア、中国を含むアジア・太平洋FTAを提案しています。

 こういう“鳩山自由化構想”が実現すれば、日本農業の崩壊が必至であることは、「関税をゼロにしたら自給率は12%、主な農産物は激減」という農水省が示した「国境措置を撤廃した場合の国内農業等への影響(試算)」(2007年2月)からも明らかです。

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高知ではすでに田植えが始まっています(撮影・尾崎淳さん=高知市)

 農業再生と食料自給率の向上は、農民連が提言しているように、輸入自由化をやめ価格保障と所得補償の2本立てでこそ実現可能です。


「基本計画」とは…

 食料・農業・農村基本法で「5年ごとに基本計画を変更する」と定められており、今回は2010年度から2020年度までの10年間を対象にしています。

 基本計画には、食料自給率の目標やその達成のための施策など、当面する農政の基本方針が定められます。

(新聞「農民」2010.4.19付)
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2010年4月

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