ハイチ大地震被災の現地リポート(下)
NGO「ハイチの会」 熊谷雄一さん
新自由主義が大被害の背景に
農村の自立こそ復興の道
23万人が犠牲となったハイチ地震。「人災」ともいわれるこの地震の被害を大きくした原因は、この国の農業とも無関係ではない。
国民の6割が農民
ハイチはかつて「カリブ海の真珠」と呼ばれていた。17、18世紀、奴隷制のもと、サトウキビ、コーヒーの生産は宗主国であるフランスに多大な富をもたらした。現在もモノカルチャー経済は継続され、換金作物としてコーヒー、マンゴー、カカオが生産されている。また、自給用作物としては米、トウモロコシ、ヒエ、イモ類、豆などが生産されている。
ハイチ国民のおよそ6割は農業を営むが、GDPに占める割合は28%と低い。耕作適地は国土の15%に過ぎないが、農地に適さない傾斜地まで切り開かれ、実際は30%が農地として使われている。主要な農作物の単位面積当たりの収量は諸外国に比べて著しく低い。
ハイチの主食は米である。1995年、IMFとハイチ政府の交渉の後、ネオリベラリズムの流れに沿った関税引き下げが実施され(35%から3%に削減、他のカリブ諸国は約20%)、価格の低い輸入米が急速に流入し、国内米農家は厳しい競争にさらされることとなった。30年前に比べ、米の年間消費量は2倍になる一方、米の生産高は3分の1にまで落ち込んでいる。
さらに森林伐採に起因する農業用水の減少、灌漑(かんがい)施設の老朽化、肥料価格の上昇、病虫害の発生など、農業を取り巻く環境は年々厳しくなったが、ハイチ政府は農業分野に多くの予算を費やそうとはしなかった。
多くの住民が農村部から都市部へ移動するようになり、近年、都市部の人口は急激に増加していった。都市部の人口過密状態が今回の地震被害を大きくした一因である。
農業省は、米に代えてキャッサバ、さつまいも等のイモ類、ヒエなどの穀物消費を増やすことを推奨しているが、国民の嗜(し)好を変えることは簡単ではない。病害耐性品種や優良品種の導入、品種改良、肥料の確保、市場への販売促進、農業生産組織の強化、民間セクターからの投資など、早急な生産高向上のための支援が求められている。
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「ハイチの会」の支援を受けて豆やトウモロコシを作る農民たち |
大きい貧富の差
国民の20%にあたる富裕層は、国全体の富の63%を保有しており、貧困層との格差は広がる一方だ。農村部では、大土地を所有する地主が小作農民に土地を貸し、小作料として収穫物の50%を課する習慣が残っている。現在、ハイチ政府と国際社会は復興へ向けての道筋を描こうとしているが、貧富の格差により厳しい立場に追いやられている大部分の農民を軽視するならば、これまで歩んできた混沌(こんとん)の歴史から抜け出すことはできない。
ハイチを支援するNGO「ハイチの会」は、農村において農業を軸に支援活動を行ってきた。現在は地震の被災者に対して緊急援助を行っているが、農村地域の自立を目指し、農民らをサポートするというこれまでの方針は今後も変わらない。
(おわり)
(新聞「農民」2010.4.12付)
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