シリーズ
COP10(第10回生物多様性条約締約国会議)
MOP5(第5回カルタヘナ議定書締約国会議)
に向けて
食物生産だけでない農業の役割
NPO法人生物多様性農業支援センター理事長 原 耕造さん
食と農の距離ひらく
人類は有史以来、飢え続け、日本では少なくとも1971年まで米が不足していました。国は国民を飢えさせないために、湿地を開拓して水田を広げてきたのです。さらに収量を上げるために、化学肥料と農薬を使う近代農法を導入し、機械化を行ってきました。
農業の近代化の結果、農業就業人口が減り、村の共同作業が減少して、村の連帯意識が希薄になりました。大量生産・流通、食の外部化により、食と農の距離が開き、人口の移転、団地化政策で村と町の距離が拡大しました。
お金にならない価値をもつ「農」は、命を生産し、はぐくむものです。近代化によってもたらされた「業」は、金の単位で測られ、食物の生産をするものです。これまで農業は、食物生産の視点だけで評価されてきました。
さらに、便利で簡単という視点が食のグローバル化を促進し、従来の日本型食生活が外食・コンビニの普及により加工食品中心の食生活に変わっていきました。
直売所は情報基地
こうしたなかで、直売所は、持続可能な消費・生産構造をどうつくるかという大切な情報発信基地の役割を果たします。直売所周辺の生産者は、地域で何が求められているのかを考えながら、店頭に並ぶ農産物を変え、それにあわせて作付けをしていきます。直売所の周辺に住む人は、単に生産者・消費者だけでなく、地域の生産・消費生活者なのです。
さらに地産地消を進めている学校給食では、地域の生産構造を含めて、学校の栄養士がほ場を見ながら、メニューを考えるという点で、直売所と共通点をもっています。
「田んぼの生きもの調査」で、害虫、益虫、ただの虫と分類されますが、これは食物生産の価値観だけで分類されたものです。JAS有機と特別栽培を定めた法律は、食品表示の流通正常化のための法律であり、環境負荷を軽減するための法律ではありません。農薬の量だけで安全かどうかが定められ、ここには、生物多様性はまったく配慮されていません。
環境と農の政策合体
いま生物多様性にとって、(1)開発事業の増加(2)里山や耕作放棄地の増加(3)外来特定生物の増加―の3つの危機が進行しています。
1992年の地球環境サミットを境に、世界は気候変動枠組み条約と生物多様性条約によって、食物生産だけでない農業政策に転換し、環境政策と農業政策の合体が行われました。またラムサール条約第10回締約国会議(2008年、韓国)の水田決議により、水田は米を生産する機能だけではなく、さまざまな命をはぐくんでいることが国際決議されました。
今年10月に名古屋市で開かれるCOP10では、世界の自然保護と食糧危機の問題が結びつき、農業・環境・食糧政策が合体するという新しい流れが起きることになります。
一方で、変わっていないのは日本です。食物生産だけの農業政策を続け、下がり続ける米価、増え続ける耕作放棄地に対しても対策をとらないでいます。
こうした下で私たちは、環境と農業を結びつける「田んぼの生きもの調査」に取り組んでいます。命の生産をする農業を理解して、一緒に行動する仲間を増やしましょう。生きもの調査を通じて、意識を共有する仲間の輪を広げましょう。
(2月13日に都内で行われた農民連青年部総会での講演から)
(新聞「農民」2010.3.22付)
|