「農民」記事データベース20100322-917-01

“食糧主権の確立を”など主張は同じ
農民連と共同してがんばりたい

JA全中専務 冨士 重夫さんに聞く

 今年は、農産物の輸入自由化をめぐって重要な年になります。WTO(世界貿易機関)は「年内合意」に向け、外交交渉が展開されます。また鳩山内閣は、昨年12月30日に閣議決定した「新成長戦略」のなかで、アジア・太平洋FTA(自由貿易協定)を打ち出し、11月に横浜市で開かれるAPEC(アジア・太平洋経済協力会議)の首脳会議に向けて、「道筋(ロードマップ)を策定する」と明言。本格的な輸入自由化に大きく踏み出そうとしています。

 こうしたなかで、JAグループはどのように受けとめ、取り組んでいこうとしているのか、JA全中(全国農業協同組合中央会)の冨士重夫専務に聞きました。

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プロフィル 1953年6月、静岡県に生まれ東京で育つ。1977年JA全中に入会、2009年6月から専務理事


 危機感もって取り組み強める

 ―WTO交渉は「年内合意」に向け、予断を許さない状況ですね。

 WTOの動きをみると、3月に「ドーハ・ラウンド交渉の現状評価」にかかわる会合が開かれますが、この会合が閣僚レベルではなく事務レベルになったということで、若干スピードが落ちたのかな、と思います。しかし、WTO事務局が6月の主要20カ国・地域サミット(G20)の前に会合を開きたいと呼びかけましたが、アメリカだけが反対し、それ以外の国々はすべて賛成しています。したがって、「年内合意」にむけた動きはいささかも油断できないということです。夏休み前、7月のモダリティ(保護削減の基準づくり)合意もありうるという危機感を持ってのぞんでいます。

 そこでJAグループでは、3月18日にヨーロッパやアメリカの農業団体を招き、国際シンポジウムを開きます。そして、6月のG20にあわせて各国の農業団体がカナダに集まって「全世界の農業者代表による共同宣言」をあげようと準備しています。このなかでは、気候変動やエネルギー、飢餓問題など地球規模の課題に対応した公正で公平な貿易ルールの確立を主張します。

 そして、こうした取り組みを土台にして、それぞれの地域でも商工業者や消費者などの団体との共同の取り組みをすすめ、理解を求めていく運動に取り組んでいくことにしています。WTOの中に、たんに農産物の自由化という視点だけでなく、こうした地球規模の視点も取り入れていくよう、働きかけていきたいと思っています。

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各地でJAと農民連の共同が進んでいます―秋田県革新懇主催のシンポジウムでJA秋田県中央会と秋田県農民連の代表がパネリストをつとめた(秋田市・2月13日)

 前政権と同じ姿勢の鳩山内閣

 ―政権が交代して、政府の交渉スタンスをどう見ていますか。

 鳩山内閣のWTO交渉へのスタンスは、前政権と変わっていないと見ています。主張すべきことは大臣にも主張していただいています。一方、FTAなど2国間協定にどう対応するのか、まだよく見えないところがあります。WTOは、多国間の交渉でどの国にも同じ貿易ルールを適用しますが、FTA・EPA(経済連携協定)は2国間だけの貿易ルールですから、いわば「差別的」なわけです。WTOを見据えて、どこの国と連携していくのか、また私たちが懸念している地球規模の課題にどう向き合うのか、鳩山内閣にはそうした基本方針をきちんと示してほしいと思います。

 JAグループは、長い間の自民党農政の下で、生産者団体としての意思反映を自民党とのつながりに軸足を置いて進めてきました。しかし、政権交代を通じて認識を新たにしたことは、政党だけでなく、地域の広範な団体、たとえば消費者や商工業者、医師などの団体も含めて、食と農の問題について連携を強め共通の土台をつくっていかなければならないということだと思っています。

 協同組合の「理念」を実践に

 ―昨年秋の国際協同組合同盟(ICA)の大会で、JAをはじめとする日本の提案で「協同組合と経済危機」という特別決議が全会一致で採択されました。これは、「ゆきすぎた市場原理主義の利益追求」を批判し、「地域の人びとと協力して持続可能な社会の発展に全力を尽くす」という内容です。また国連は、2012年を「国際協同組合年」に定めました。協同組合の良さをあらためて見つめなおす機会になるのではないでしょうか。

 実は、私がJAで働こうと思ったのは、株式会社のように利益を追求するのではなく、「相互扶助」といいますか、みんなで支えあう社会をめざすという協同組合の理念に共感したからです。

 そういう点で、2012年の「国際協同組合年」には強い思い入れがあります。たんなるお祭りにしてはいけません。協同組合は農林漁業のほかに、中小企業などにもありますが、たとえば、協同組合基本法の制定を求める運動のような具体的な取り組みを伴うものにしていきたい。

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農民連役員と懇談する冨士常務(当時、左端)=2008年12月25日

 同じ主張をもつ団体と運動広く

 ―最後に、農民連にどんなことを期待しますか。

 同じ主張を共有できる人たちと運動を広げていくことは、とても大事なことです。「食糧主権の確立を」という主張は、JAも農民連も同じなのですから、お互い連携してともにがんばろうではありませんか。

(新聞「農民」2010.3.22付)
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2010年3月

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