シリーズ
COP10(第10回生物多様性条約締約国会議)
MOP5(第5回カルタヘナ議定書締約国会議)
に向けて
生物多様性を守るのは市民の力
ドイツの環境保護活動家、生物学者
クリスティーヌ・フォン・ヴァイツゼッカーさん
日本では「食と農から生物多様性を考える市民ネットワーク」が設立され、さまざまな活動を展開しています。生物多様性条約、カルタヘナ議定書では、市民の参加を強調しており、国レベルで協力体制を作ることは大変意義のあることです。
過去の過ちを教訓に
カルタヘナ議定書は、過去に科学技術の導入で起きた過ちから学び、教訓を遺伝子組み換え(GM)という新しい科学技術に当てはめようとしています。これは、従来の「予防」に「慎重原則」と「汚染者負担原則」を適用することです。
「予防」とは、すでに被害が起きることが分かっているのなら、起きないようにした方がいいという考えです。「慎重原則」とは、たとえ科学的によくわからなくても、深刻な、または取り返しのつかない被害の兆しがあるときは、政府は対策を取らなければならないという意味です。「汚染者負担原則」は、汚染者が被害者に損害賠償をすることです。
過去の科学技術から学んだ教訓をGM技術に当てはめるには(1)早い時期に利害を排除した形で適切なリスク評価を行う(2)国の法規制(3)国際ルール―が必要です。
生物多様性条約は、1993年に発効。締約国は190カ国で、2年ごとに締約国会議を開催しています。会議は3つの目的(1)生物多様性の保全(2)生物多様性を構成する要素の持続可能な利用(3)遺伝子資源の利用から発生する利益の正当かつ公平な配分―から成り、これらは相互に関連しています。
カルタヘナ議定書は、2003年9月に発効しました。これは、生物多様性条約に付随する議定書で、締約国は157カ国で2年ごとに締約国会議を開催しています。
条約を協定に変える
この議定書は、生物多様性条約の緩やかな規定を、法的拘束力のある協定に変えるものです。「慎重原則」に基づき、GM生物の移動、管理および利用を規制しています。加えて生物多様性の保全と持続可能な利用に対する悪影響を防ぎ、人の健康へのリスクも対象にしています。国境を越えた移動にも焦点があてられています。
GM作物のメーカーとは、モンサント、シンジェンタ、デュポン、ダウ・ケミカル、バイエル・クロップサイエンス、BASFの6社で、GM作物の輸出大国は、アメリカ、カナダ、アルゼンチンの3カ国です。ロンドン市立大学のティム・ラング教授(食糧政策)は「GMの問題とは、何よりもまず農薬会社が売り上げを維持する方法として導入してきた」ことだと述べています。
輸出国はGM作物を輸出するだけでなく、アメリカ生まれの法律概念「健全な科学」の原則も輸出しています。これは、ある被害の因果関係が科学的に完全に立証されない限り、またその立証結果が専門雑誌に掲載されない限り、さらに科学者の間で合意がない限り、政府は何もしてはいけないということです。
COP10・MOP5では、人々の権利、環境や自然をどう守っていくのかが争点になりますが、今後も開催地の日本、名古屋のみなさんの活動、働きかけに大きく期待したいと思います。
(09年10月24日に名古屋市で行われた「生物多様性条約・カルタヘナ議定書締約国会議1年前記念集会」での講演から)
(新聞「農民」2010.3.8付)
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