「農民」記事データベース20100301-914-12

シリーズ
COP10(第10回生物多様性条約締約国会議)
MOP5(第5回カルタヘナ議定書締約国会議)
に向けて

関連/農業生物多様性は食料 安全保障と農村開発の要

 今年の10月に名古屋市で第10回生物多様性条約締約国会議(COP10)と第5回カルタヘナ議定書締約国会議(MOP5)が開かれ、地球の自然を守るために何が必要か、そのために遺伝子組み換え技術などバイオテクノロジーをどう取り扱うかが話し合われます。いま各地で取り組まれている学習や運動の中から、生物多様性についての学者や専門家、運動家らによる集会の内容やインタビューを順次紹介します。


国際シンポ 「食・農・暮らしと生物多様性」

生物多様性を支える
農山村の自然と社会

画像 社団法人国際農林業協働協会(JAICAF)は1月29日、都内で国際シンポジウム「食・農・暮らしと生物多様性」を開きました。

 第1部の基調講演では、国際生物多様性センター次長のクウェシ・アタ・クラ氏(ガーナ)が「農業生物多様性―食料安全保障と農村開発の要」のテーマで報告(別項)。農業の生物多様性が食料不足、飢餓、栄養不良などの問題を解決し、その利用・保全が求められていると強調しました。

 第2部のパネルディスカッションでは「生物多様性保全と農村開発の両立」について討論。JICA東京国際センター所長で女子栄養大学客員教授の草野孝久氏は、単一または少数の一次産品に依存するモノカルチャーの弊害を告発。マレーシアのサバ州では、アブラヤシ・プランテーションの拡大で森林や湿地が消失し、「生物多様性の喪失を招いている」と述べました。

 東京学芸大学教授で環境教育実践施設長の木俣美樹男氏は「農家・行政・研究所の連携による雑穀、野菜など在来品種の種子の保存が生物文化の多様性を維持するのに不可欠だ」と指摘しました。

 名古屋大学大学院国際開発研究科教授の西川芳昭氏は、種子の貸出事業(ジーンバンク)が、農民の創意工夫や技術と一体化して行われるなかで、自家採取の復活や地域の活性化に貢献している事例を報告しました。

 「いりあい・よりあい・まなびあいネットワーク」理事で日本国際ボランティアセンター事務局次長の壽賀(すが)一仁氏は、失われた生物多様性を取り戻す各地の取り組みを紹介。農村社会の儀礼や規範、在来農法と自家採取の復活で、農山村の暮らしを取り戻す農村開発の重要性を力説しました。


農業生物多様性は食料
安全保障と農村開発の要

ガーナ・国際生物多様性センター次長
クウェシ・アタ・クラさん

画像 生物多様性、それはいのちです。都市や国土の開発は必要なことですが、生物多様性を犠牲にした開発は危険なものです。生物多様性と環境への配慮は、開発の中核に据えられなければなりません。

 農業生物多様性とは

 生物多様性は、(1)同一種内(2)異種間(3)生態系―の3つの異なるレベルでとらえなければなりません。その価値は、生態系、食料・栄養・飼料など生物学的機能、社会、文化、農村開発に対する機能として働きます。

 生物多様性の重要な部分が農業です。また農業は生態系の回復力にも大きな影響を与えます。いま人類は飢餓と貧困、栄養不良と疾病、気候変動などの課題に直面しています。飢餓人口は10億人を超える勢いです。さらに乳幼児死亡率の削減、妊産婦の健康改善、HIV・エイズの防止などに取り組まなければなりません。

 温暖化も進み、新しい病害虫の発生、水不足と砂漠化などが引き起こされています。そうした諸問題に対処するために、農業生物多様性が保障され、より厳しい条件下で、環境を保全しながら、より多く生産する農業システムが必要です。

 農業生物多様性とは、食料や農業にかかわる生物多様性の要素(植物、家畜、作物の近縁野生種、花粉媒介昆虫、土壌微生物など)のすべてを含むものです。それは、作物・家畜改良の源泉になるほか、栄養・健康の向上、気候変動への対応、社会的・文化的健全性と農村開発にとって必要です。

 食の多様性と健康

 農業生物多様性は、人類の歴史全体を通じて食生活の基礎にありました。農村の貧困層、とくに女性や子どもの食生活の多様性と栄養的な健康状態との間には高い相関関係があります。また多くの伝統的食料体系は、栄養価の高い現地種にもとづいた、健康によい要素を含んでいます。

 いま隠れた飢餓が進行しています。これはビタミンやミネラルが欠乏し、甲状腺腫(しゅ)や貧血、免疫機能不全などとして現れ、患者は世界で20億人にものぼるといわれています。とくに女性や子どもに悪影響を及ぼしています。

 また一方で、肥満や循環器疾患など「豊かさ」病といわれる現象が都市部の貧困階層で増えています。これはファストフードの普及、脂肪と食用油摂取の増加、伝統的・現地固有食品を食べる機会の減少など食習慣とライフスタイルの変化が原因といわれています。食べ物の多様性も広げなければなりません。

 新しい「緑の革命」

 こうした問題を解決するためにも、世界には、活用されていない種が存在しています。これは現地固有のものでその地に適応し、環境にもやさしく、高栄養価なものです。たとえば、ササゲ、アマランサスなどの葉菜類、ココヤムなどの根菜類、野生イネなどの雑穀類があります。

 いま求められているのは、新しい「緑の革命」です。これは、生物多様性と遺伝的多様性の価値を認め、農薬や肥料、かんがい用水などを環境に配慮して効率的に使うこと、過剰な単純化を避けた集約化により、地域社会や農民の関与を必要とするものです。

 農業生物多様性は、持続性、回復力のある生産システム、食料の増産、環境保全などの長期的な課題のために必要な手段です。

(新聞「農民」2010.3.1付)
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2010年3月

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