「農民」記事データベース20100301-914-10

本の紹介

井上 和衛 著
教育ファーム


農村漁村の活性化の観点から
教育ファームの展開方向を提言

画像 筑波書房ブックレット―暮らしのなかの食と農シリーズから、「教育ファーム」(著者・井上和衛)が出版されました。

 いま、学校教育を通じて農林漁業、農山漁村生活体験学習が盛んです。国は2008年度から「子ども農山漁村交流プロジェクト」をスタートさせました。このプロジェクトは、5年後には全国の公立小中学校約2万3000校、1学年約120万人の子どもたちが、農山漁村で1週間ほど宿泊しながら体験を行うことを目標にしています。こうしたなかで「教育ファーム」への関心が高まっています。

 本書は、先進的な活動を行っているフランスの「教育ファーム」に学び、わが国で始まっている酪農教育ファームなどの取り組みを紹介し、農山漁村の地域活性化の観点から、農山漁村体験ビジネスの問題点や教育ファームの展開方向を提言しています。

 なお、教育ファームの定義については2通りあり、農水省が「体験を提供する取り組み」としているのに対して、フランスや酪農教育ファームを進めている中央酪農会議では「体験受け入れ先の農場や牧場」としています。本書では、後者をとっています。

 フランスにはじめて教育ファームが登場したのは、1974年リール市でした。これは地方自治体が設立したモデル農場型ファームですが、その後ビジネスとして教育ファームを始める農家が増加しました。いまでは、運営主体が地方自治体、NGO、農家個人またはグループの3つに分けられます。年間利用者総数は330万人(2002年)で、農業や環境の学習、農村文化の伝承、農村との交流、いやし、そしてレクレーションなどを行っています。

 一方、日本では、中央酪農会議が1998年に酪農教育ファームを立ち上げ、いまでは認証牧場が257カ所にのぼっています。年間約70万5000人の子どもたち(家族も含め)が、搾乳やバターづくり、動物とのふれあいなどを行っており、本書では神戸市立六甲山牧場など7つの事例を紹介しています。

 著者は、今後の課題として、受け入れ農林漁家の育成と全国的なネットワークづくり、直売所や農家民宿などビジネスと結んだ教育ファーム事業の推進、関係機関との協力体制づくりなどをあげています。

 教育ファームの現状と問題点を知る上では、手ごろな入門書と言えます。

▼750円+税、筑波書房 TEL 03(3267)8599

(新聞「農民」2010.3.1付)
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2010年3月

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