「農民」記事データベース20100222-913-07

炭焼き
がんばる農民連会員の親子

福島県・郡山市 石(いし)筵(むしろ)地区
安田大介さん・剛(つよし)さん

 かつて日本各地で行われていた炭焼き。しかし石油やガスが取って代わるにつれて炭焼きは姿を消し、今やその技術も失われようとしています。山里に暮らす技術と知恵を引き継ごうと、農業のかたわら、炭焼きに取り組んでいる農民連会員の親子がいます。福島県郡山市石筵地区に住む安田大介さん(72)、剛さん(40)親子の炭焼き窯を訪ねました。
(満川暁代)


ぼくは将来“無形文化財”
助け合いの心と技術を引き継ぐ

 炭焼きが里山の生態系を守った

画像 「この技術をちゃんと身に付ければ、おまえも無形文化財になれるぞ」――勤めていた会社を退職し、転職活動中だった剛さんの心を動かしたのが、昔から炭焼きをしてきた大介さんのこの言葉でした。

 「昔、そうだなぁ、昭和30年代終わりごろまでかなぁ、この辺りは農業だけでは食べていけなかったから、農作業のできない冬の間、どの家も炭焼きをやってたんだぁ。炭1俵(60キログラム)がかなりの高値で売れて、炭焼きと大工の日当が一緒くらいだったから、家族中で協力して炭焼きしたもんだ。重労働だったけど、楽しみでもあったんだ」と大介さん。

 炭の原木はクヌギやナラ、ケヤキなどの落葉広葉樹で、集落の周囲の雑木林から切り出して、窯場まで運んで2昼夜かけて焼くと、白炭という種類の炭ができます。こうして適度に間伐することで広葉樹が世代更新され、里山の豊かな生態系が保たれてきました。

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安田大介さん(中央)、剛さん(左)、窯場を共同で作った古川吉雄さん(右)。炭焼き窯の前で

 みんなで助け合った「山分け」

 炭焼きにとって重要なのが、原木を切り出す雑木林を炭焼き農家に区画割り当てする「山分け」です。何らかの事情で炭焼きをやめる家の分を、田畑の少ない農家が炭焼きで生計をたてられるようたくさん分けたり、炭や原木の運び出しやすさ、炭焼き窯の作りやすさなど、さまざまな要素を集落のみんなで相談して「山分け」しました。大介さんは「村の人みんなが生きていけるように、助け合うのが当然だった」と当時を振り返ります。まさに共同が村の暮らしを支えてきました。

 窯は石と土を合わせて作りますが、1000度近い高温にも耐えられるものでなければならず、良い石と土、そして高い技術と重労働が必要です。各家々の炭焼き窯も共同作業で作りました。

 全工程できるのは今はオレ1人

 窯に原木を詰め、温度調節をしながら焼く作業もたいへんな技術がいります。「弟子入り」をして今年で3年目という剛さんですが、「僕はまだ本当に駆け出しで、この“窯入れ”と火の調節は思うようにできない」そうです。

 「炭焼きは、焼く人間の性格がでるから面白いんだよ。時間かかってもいい炭を焼く人もいれば、とにかく短時間で終わらせる人もいる。上には上がいて、オレだってまだまだ青二才なんだけど、今となっては窯作り、道具作りから炭出しまで全工程を一人でできるのは、オレ1人になってしまったなあ」と大介さんは言います。

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炭出し作業をする剛さん。小屋の外は一面の雪。まっ赤に焼けた炭と窯の炎が薄暗い小屋内を温かく照らす

 炭火をゆっくり燃やす豊かさ

 剛さんは「実際に炭焼きをやってみると、日によって炭のでき具合が違って、本当に奥が深い。僕はまだまだ修行中だけど、かつての炭焼き経験者がみんな70歳を超える高齢者になっていて、この技術を途絶えさせてはいけない、とますます思いますね」と語ります。

 剛さんのこの思いは、最近、炭が社会的に見直されていることにもつながっています。「いま温暖化が問題になっていますが、炭は原木が育つ過程で二酸化炭素を吸収しているので、とても自然に優しいエネルギーなんです。山の手入れにもなりますし、もっともっと普及していっていいエネルギーではないでしょうか」と剛さん。

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大介さんの自宅のストーブにくべられた炭。煙はまったく出ず、不思議と部屋全体がじんわりと暖まる

 現在、出来上がった炭は郡山市内の焼き鳥チェーン店のほか、農業資材会社や渓流釣りの釣り宿などに販売しています。「炭なんて見向きもされない時代もあったけど、今は消臭効果などいろいろな炭の効果が注目されるようになってきました。それに炭火には人の心を温める力があると思うんです。ゆくゆくは炭を作って売るだけでなくて、炭火をゆっくりと燃やすぜいたくというか、豊かさというか、炭の使い方や良さを一般の人にも広げていければ」と、大介さんの思いも広がっています。

(新聞「農民」2010.2.22付)
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2010年2月

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