食料自給率の向上は、
輸入を規制し生産費を償う
価格保障と所得補償でこそ
「戸別所得補償モデル対策」の決定にあたって
2009年12月26日 農民連会長・白石淳一
農民連は12月26日、農水省が来年度から実施する「戸別所得補償モデル対策」について、白石淳一会長の談話を発表しました。
(1)赤松農相は12月22日、「農業の立て直しと食と地域の再生に向けて」との談話を発表し、2010年度に実施する「戸別所得補償モデル対策」「水田利活用自給力向上事業」(総額5618億円)を決定した。談話の中で赤松農相は、この制度の目的を「食料自給率の向上を図るとともに、農業と地域を再生させ、農山漁村に暮らす人々が将来に向けて明るい展望を持って生きていける環境を作り上げていく」と述べている。
打ち出された「対策」は、市場原理一辺倒の自公農政に一定の変化をもたらすものである。また、当初案で大幅に減額されていた転作への助成を「激変緩和対策」として上積みするなどの修正が加えられたが、これは、農民連をはじめ、この間の関係者の懸命の運動の成果である。
しかし「対策」は、選挙で示された国民や農民の願いからも、民主党の選挙公約からも後退しており、きわめて不十分な事業といわざるを得ない。しかも、同事業予算を確保するために土地改良事業費を半減するなど、農林水産予算を約1000億円も削減した「共食い」予算になっていることは重大である。
(2)「戸別所得補償モデル事業」は、生産目標数量(生産調整)にもとづいて米を生産する農家を対象に、「標準的な生産に要する費用」と標準的販売価格との差額を全国一律で補てんするというもので、定額部分の交付単価を全国一律に10アールあたり1万5000円(60キロ当たり1698円)に設定している。
農水省が発表した2008年産米の生産費は60キロあたり1万6497円であるにもかかわらず、鳩山内閣が想定している生産費は1万3703円にすぎない。これは家族労働費を2割カットして生産費を人為的に切り下げ、「全銘柄平均の相対取引価格」で計算して標準的販売価格を水増ししているためである。これは「農家手取りの岩盤補償を行う」などと胸を張れるものではなく、きわめて不十分な事業といわざるを得ない。また、全国一律単価としているため、中山間地などの条件不利地の切り捨ても避けられない。
(3)自公政権時代の「米改革」によって米流通の規制が撤廃され、大手流通資本の買いたたきが野放しになっていることが、この間の米価下落の原因である。こうした買いたたきを放置したままで10アールあたり1万5000円を交付したところで、さらに買いたたかれて米価が下落させられる恐れがある。
農民連は「要求と提言」で、米の生産コスト(1万7000円)と農家の販売価格との差額を政府が補てんする「不足払い」制度を要求している。買いたたきを規制して、市場に公正な価格形成の機能を回復させることとあわせて、1万7000円米価の実現を要求する。
(4)米戸別所得補償モデル事業とセットになっている水田利活用自給力向上事業は、麦、大豆、飼料作物、米粉用・飼料用・バイオ燃料用・WCS(ホールクロップサイレージ)用稲の新規需要米、そば、なたね、加工用米等の転作作物に対して、生産調整の参加の有無とは切り離して直接支払いするものである。
しかし、現行の「産地確立交付金」等に比べて助成額が減少する地域の影響を緩和するため、総額310億円で交付単価を加算する「激変緩和措置」を講ずるとしているが、310億円の根拠がなんら示されておらず、北海道の試算(交付金が121億円減少)に見られるように目減りは避けられない。また、戦略作物以外の「その他の作物」の10アールあたりの交付単価はわずか1万円で、野菜や花き、雑穀など地域振興作物を生産してきた地域にとっては死活問題である。米並みの所得が得られるよう、制度の見直しを求める。
(5)年の瀬をひかえ、米をはじめとする農産物価格が軒並み暴落している。しかし政府は何ら対策を講じようとしていない。農家の経営と暮らしを守るために、備蓄米の買い入れ、リンゴやみかんの経営安定対策、不当な買いたたきや輸入に対する規制を要求する。
戸別所得補償が、WTO、FTAなどの農産物輸入自由化を推し進めるための手段となることは断じて容認できない。歯止めなき輸入自由化をストップさせ、農産物の価格保障と所得補償の組み合わせを柱にする農政こそ、食料自給率を向上させる道だということを、あらためて国民のみなさんに訴えるものである。
(新聞「農民」2010.1.18付)
|