食糧主権の確立は世界の流れWTO解体へさらに運動強化をWTO(世界貿易機関)閣僚会議が昨年11月30日から12月2日まで、スイス・ジュネーブで開かれました。農民連の白石淳一会長、全国食健連(国民の食と健康を守る運動全国連絡会)の坂口正明事務局長のほか、北海道農民連から野呂光夫書記長、畑作農家の和田徹さん(26)=小清水町=、酪農家の岩崎友規さん(26)=別海町=も参加し、国際的農民組織ビア・カンペシーナの行動に合流しました。
WTO閣僚会議 in ジュネーブ各国の農民・市民が監視行動今回の閣僚会議には、各国の農民、市民が監視行動に結集し、NGOセンターには500人を超える人々が集まりました。11月28日に行われたデモに「北海道農民連」のはっぴを着て参加したところ、たいへんな注目を浴びました。デモは、スイスの農民組織がトラクター約10台を繰り出し、家族連れや楽器を持った人たちが乗り込んで、パレードを引き立てました。 デモ出発地点には、予定された人数の倍以上の6000人が集まりました。デモ行進が始まると、家族連れや市民がどんどん参加して、きわめて友好的でした。ところが、一部の暴力集団が破壊行為を行ったため、デモは解散を余儀なくされました。集会に出席したジュネーブ市の副市長は「デモは暴力によって中断されたものの、参加者数は予想を超えるもので大成功だった。WTOに代わる新たな世界を作ることは可能だ」とあいさつしました。 12月1日の「農民の日」行動では、世界から参加した農民がトラクターに乗り込んで、多国籍企業のブンゲやカーギルなどに抗議に押し寄せ、各会社の門前に麦わらをばらまくというアクションを行いました。これは、企業は農民から“実”の部分だけを持って行って、農民には“わら”だけを押しつけていることへの抗議の意味を込めたもの。 トラクターデモは近郊の農家まで行き、スイスの農民と交流しました。この農家は3人の共同経営で、大規模なハウス栽培をしていました。ハウスで作った野菜は「日本の産直運動に学んで、直接消費者に届けることにしている」と言います。日本の産直運動がスイスにまで広がっていることに驚きました。
まとめの会議では「どんな閣僚会議であろうと、抗議行動を行うことが大事であり、食糧主権の確立が世界の流れだ。引き続きWTO解体に向けて各国での運動をさらに強めよう」と誓い合いました。 最後に、多くの海外の参加者から「日本から若い人たちが参加してくれてありがとう」と感謝されました。 (野呂光夫)
世界の食糧危機にWTOは無力鳩山政権は自公路線を踏襲白石 淳一私たちは、ビア・カンペシーナの行動に参加するとともに、NGO登録をした坂口さんと私が、ラミーWTO事務局長のNGO向け説明会や閣僚会議の全体会合を傍聴する機会を得ました。また外務省から、WTO閣僚会議の状況、日本政府としての評価について説明を受けました。 今回の閣僚会議に対する私の関心は、(1)何度も決裂を繰り返し「集中治療室と火葬場の間にある」WTO交渉がどのようになるのか、(2)マニフェストで「WTO交渉を推進する」としている新政権がどのような態度をとるのか、という点にありました。 全体会合では「2010年までの妥結に努力する」と述べましたが、その言葉とは裏腹に何の進展もありませんでした。 その要因を外務省経済局国際貿易課は「アメリカは交渉体制が整っていない」「EUも担当の閣僚が代わる」「日本も新政権になった」など、「閣僚がお互いに知り合う場」であったとして、初めから交渉を進める体制になかったことを認めています。そのうえで閣僚会議は「今後の交渉の雰囲気づくりに貢献した」としています。 一方、NGO組織は「世界で起こっている金融危機、食糧危機、気候変動の危機にWTOはまったく無力であること」、その原因は「WTOそのものがこうした危機を引き起こした元凶であること」「だからこそWTO自体が危機に直面している」と指摘し、今回の閣僚会議は「各国からWTOへのコミットメントを出させ、崩れかけているWTOへの信頼を再構築することにあった」と指摘しています。 日本政府は、全体会合で当初予定されていた赤松農水相に代わり直嶋経済産業相が発言し、「条件の異なる各国の農業が相互に発展しあえるような各国のセンシティビティー(重要な品目)に配慮したルール作りが必要」と述べました。 これは「今回の主張は前政権の延長線上」(外務省)と言うように、WTOを絶対視し自由化を推進した自公政権の路線を踏襲したものでした。 「来年の妥結は難しくなった」との見方が広がっていますが、中国やインドなどG20グループの中にも、アメリカの圧力を恐れ、合意に至らなかった08年7月の非公式閣僚会議の案が「よりましだ」との見方が浮上するなど予断を許しません。 WTOを葬り去るためにも、運動をいっそう強化することが必要です。
多国籍企業の進出は農業崩壊を深刻化する北海道・小清水 和田 徹さん(26)今回の活動のなかで特に印象に残ったことは、ジュネーブ当局の言論・表現に対する態度が寛容だったことです。11月28日のデモ行進の際には、デモ隊がスタート地点に向かう最中に、車道を半ば占領した状態であったにもかかわらず、警察はおろか通行を妨げられた路線バスからも、特におとがめを受けるということはありませんでした。 一部の暴力集団によって私たちの活動が妨害されたものの、今回の抗議行動は比較的スムーズに行うことができました。座り込み行動はさまざまな国からの参加者で活気に満ち、全体の行動も余裕のあるものでした。 興味深かったのは、メキシコで伝統農法を営んでいる農家の話でした。栽培方法がユニークで、土地の使い方も上手だと感心させられました。 食糧主権に関するワークショップでは、多国籍企業の進出で生じた伝統的な農業の崩壊が深刻になっているというインドからの報告が印象的でした。私たちが掲げる食糧主権の確立には、乗り越えなければならない問題があると感じました。
農業を守るためには積極的に発言しよう北海道・別海 岩崎 友規さん(26)参加者は途上国の人が多く、多国籍企業による遺伝子組み換え作物や、バイオエタノール原料の生産のために農地を追われた話を聞きました。飼料穀物を海外に依存している日本の酪農家としては頭が痛い話でした。6000人規模のデモでは、市民の関心が高く好意的で、デモの途中から参加する人も多く、何度も話しかけられました。ジュネーブ市も応援の意思を表明してくれました。スイスの市民運動への意識の高さを強く感じるできごとでした。 交流会で、私は日本で“マイペース酪農”という放牧を主体に、購入飼料・肥料になるべく頼らない酪農をめざす集団があるという話をしました。スイスの酪農家に話しかけられ、「この1年で乳価が大幅に下がる(日本円で1リットル50円を切る)危機的な状況で、国と乳業メーカーに再生産できる価格を求めている」とのことでした。 日本でも生産者が今以上にWTO農業交渉やFTAへの危機意識を強く持ち、自分たちの農業を守るために、積極的な発言をしていかなければならないと思います。
(新聞「農民」2010.1.11付)
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[2010年1月]
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