ダーウィン『種の起源』発刊150年
「農にとってなぜ、いまダーウィンか」
「農の会」会長 柳下 登
今年は、生物界の多様性を解明した先駆者、ダーウィンが『種の起原』を発刊してから150年目にあたります。ダーウィンは『種の起原』で、「万物は創造主によってつくられ、それ以後、不変である」とする神学から、「生き物はもとの種から変化して今日の多様な姿になった」と説きました。そして、なぜそうなったかという原理を明らかにし、科学的な生物観を確立しました。
生存競争と自然淘汰
生き物が変わる理由として生存競争と自然淘汰の原理を示し、ダーウィンは『生存競争』という言葉を、『ある生物が他の生物に依存することや、個体が生きていくだけでなく子孫を残すことに成功すること』と、広義にまた比喩(ひゆ)的な意味に用いました。それは、「生き物は他の生き物と非生物環境(温度、水、土壌など)、すなわち自然の二重構造に依存して生き、自分の生活スタイルを変え、生き残ってきた生き物の歴史の実態をよく見よ」ということです。世に言う「生き物はお互い競争して強いものが残る」という勝ち組、負け組の論理とはまったく異なります。
今日、生物界の多様性が注目されています。それは生物多様性条約にあるように、人間が利用する立場からの多様性です。ダーウィンは生物界の多様性という言葉は使っていません。しかし、「多様な自然の二重構造での依存関係は、生き物が生き物として生きていく原動力であり、多様な生物を産み出す場である」と教えています。多様性は極めてダイナミックなものです。人間(人類)は、多様な生物界の一員であることを自覚し、人類の発展はこの多様な自然を維持し、さらに豊かにしていくことなしには生きていけません。
生産発展の原理は…
アフリカのある地域で発生した人類は、個体数(人口)を増やし分布を広げ、今では地球全域で生活しています。生きていく過程で道具を作り、牧畜、漁撈(ぎょろう)、農耕と新しい生活スタイルを産みだしました。自然の中にあって、人類の手で新たなる自然(田畑森林)を興したのです。これを「2次的自然」と言っています。このことは、人類が自然の多様性を豊かにする役割を担いつつ、自分を豊かにしてきたことを意味しています。これが「農の本質」といえます。
農はもともと、作物や家畜の生き方を大切にし、周辺の有機資源をその時代の社会にいかし、人間と自然の依存関係=「つながり」を作ってきた活動です。作物や家畜と環境との「つながり」や株、家畜であれば個体、雌雄、親子の「つながり」を正しく保つことが生産発展の原理です。
この立場から、農業技術の確立が必要です。それらを列挙すると、無農薬、有機栽培、不耕起で昆虫や微生物を増やすこと。隣作(隣に植える作物)、輪作、後作問題、家畜の導入、コンパニオンプランツ、バンカープランツなどがあげられます。
以上、ダーウィンに学び「農にとってなぜ、いまダーウィンか」について述べましたが、誤ったダーウィンの競争原理から子どもたちが解放されるきっかけになることを願っています。
(新聞「農民」2009.12.21付)
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