農民連創立20周年記念
ベネズエラ農業視察ツアー(1)
1998年のチャベス政権誕生以来、大胆な社会変革を進める南米ベネズエラを、農民連の22人(随員含む)が視察しました。7日間にわたって同国に滞在し、政府関係諸機関や農村を精力的に訪問。実情をつぶさに視察して、革命の熱気を肌で感じとりました。
(町田常高)
組織も政府スタッフも若い
新しい国づくりへ熱い息吹
住民自身が変革に主体的に参加
首都カラカスでは、農業改革に取り組む農業・土地省や土地改革庁、社会変革への住民の主体的な参加を促す住民共同体・社会保護省などの中央官庁を訪問して実情を聞くとともに、日本の実情も紹介しました。
ベネズエラはかつて農業国でしたが、豊富な石油資源の発見後、石油依存の経済社会ができあがり、農業は軽視され、食料自給率も1990年には30%程度に落ち込みました。また、スペイン植民地時代以来の半封建的大土地所有がいまでも残り、農業労働者は貧困にあえいでいました。農業改革の目的は、大土地所有を解体して農民の所有に移し、農業生産を回復することです。この10年ですでに約200万ヘクタールの土地が農民の所有に移り、食料自給率は約80%にまで回復しているといいます。
また、革命のこれまでの成果をさらに深めるために、地域住民自身が社会変革に主体的に携わることが課題となり、「住民共同体」の建設が進められています。政府の進める諸社会計画を、地域住民が実情に合わせて統合的に実施しようという試みです。ここにベネズエラ革命の独自性があることが強調されました。
ところで、これらの諸官庁は、10年来の革命の過程で再編されたり新設されたりしたものです。組織も若いですが、スタッフも若く、意欲的にはつらつと活躍する姿が印象的でした。とくに、住民共同体・社会保護省で視察団に応対したマルゴー・ゴドイ副大臣は29歳の女性で、その若さに参加者一同から感嘆の声が上がっていました。
深刻な社会問題解決へ実践的摸索
チャベス大統領の最大与党=ベネズエラ社会主義統一党や、与党連合の一角を占めるベネズエラ共産党の幹部とも懇談しました。これらの懇談を通じては、ベネズエラの変革が「社会主義革命」を標ぼうしつつも、特定の思想や理念に導かれるよりは、直面する深刻な社会問題の解決をめざして実践的な模索を繰り返しているという印象を受けました。どのような社会主義をめざすのか、その道筋や将来像については、これから議論に待たれるようです。
協同組合が農業の主役に
農村部は、2カ所を訪問しました。1カ所はカラカス近郊のミランダ県にあるパライソ・デル・トゥーイ住民共同体。5900世帯3万人が、民間企業が所有していた6000ヘクタールの土地を共同体の住民の所有に移して農業に取り組んでいます。住民自身が消費する野菜や卵などを生産し、外部への供給もめざしています。キューバから派遣された技術者が有機野菜づくりの指導にあたっていました。共同体は農業だけでなく、住宅建設など地域のさまざまな課題に、政府の支援を受けて取り組んでいます。
もう1か所は、カラカスから300キロほど西のララ県アナ・ソト協同組合農場。ここは乾燥地帯で、1人の地主が所有していた1400ヘクタールの未利用地を収用したところです。国の支援で大規模な灌漑(かんがい)施設が建設され、それまでの土地なし農民83家族が協同組合をつくって野菜の生産に取り組んでいました。農民の代表が、「以前は奴隷のような生活だったが、いまは希望がある」と語ったのが印象的でした。
|
カラカスには住民に農業技術を指導する農場がありました |
世界と交流・連帯大きな励ましに
今回の視察ツアーでは、滞在中に14の訪問・会合を行い、交流を深めました。参加者は「新しい国づくりへの国民の熱意が伝わってきた」「女性が活躍している」「試行錯誤はあるだろうが、ぜひ革命を成功させてほしい」などと、新鮮な感動を語り合いました。
ベネズエラ側の接遇についても、とくに記しておく必要があります。
現地では、ビア・カンペシーナの活動家でもあるブラウリオ・アルバレス国会議員が関係諸機関の日程調整などを行ってくださり、また日本では、コーディネーターを務めた新藤通弘さん(現代ベネズエラ研究者)が事前に大使館を訪問するなどした結果、各訪問先では周到な準備が整えられていました。官庁では副大臣級の幹部が応対し、農村では歓迎集会が催されるなど、視察団は各地で熱烈な歓迎を受けました。報道機関のインタビューも多く、有力紙でも視察のようすが報じられました。
多くの困難を克服しながら変革の道を進むベネズエラの人たちにとっても、世界の人々を迎えて交流を深め、連帯を強めることが、大きな励ましになっていることが、熱く伝わってきました。
(つづく)
(新聞「農民」2009.11.23付)
|