「農民」記事データベース20091116-901-01

民主党の農業政策をどう見るか

関連/新聞「農民」に期待します

 民主党を中心とする鳩山内閣が誕生して50日余。いま国会では、民主党のマニフェストを中心に論戦がたけなわです。農業問題では、FTA(自由貿易協定)・EPA(経済連携協定)の促進とあわせて、農家への戸別所得補償制度が焦点になっています。農民連の全国代表者会議で、真嶋良孝副会長が「民主党の農業政策をどう見るか」と題して講演しました。その大要を紹介します。


「打倒対象」ではない「利用可能」な政権

 新政権にむけた連立政権合意では、「生産に要する費用と販売価格との差額を基本とする戸別所得補償制度を販売農業者に対して実施」することを掲げています。これは農民連が提案している「不足払い」制度と重なるものです。また、赤松農水大臣は、耕作放棄された水田のうち、当面10万ヘクタールに米粉や飼料米用の超多収米を作付けし、10アールあたり8万円を助成すると提案しています。これは、農民連の提案には及ばないものの、前政権に比べるとはるかに積極的です。こうした面をみると、神戸大学の二宮厚美教授が指摘しているように、「『打倒対象』ではない『利用可能』な新政権」と言えます。

講演する真嶋副会長(10月22日)

決して見過ごすわけにはいかない弱点

 しかし、決して見過ごすわけにはいかない弱点があります。それは新自由主義路線による貿易自由化です。食料自給率の向上と明らかに矛盾する自由化にこだわるのは、そのおおもとに「脱官僚」は掲げられても「脱財界」を決して掲げられないからです。民主党のマニフェストを忠実に実行すれば、アメリカだけでなくオーストラリアや中国、韓国とのFTA・EPAに突き進み、さらにWTO(世界貿易機関)協定妥結に至ることになります。したがって、その条件づくりとしての戸別所得補償制度を軽くみることはできません。

戸別所得補償をどう見るか

 戸別所得補償制度は価格保障と重なる部分もありますが、あくまで「所得補償」に固執する民主党の政策には、重大な問題がひそんでいます。

 第1に、自由化推進の手段として位置づけられていることです。小沢一郎氏はある雑誌(月刊BOSS、06年6月号)でこう言っています。「民主党が政権を取ったら、アメリカとFTAを結ぼうと考えている。韓国とも中国とも結ぶ。結ぶからには例外なし」「日本の農水産品の総生産額は13兆円。それを全部補償したところでタカが知れている」。

 第2に、所得補償の内容がやせ細り薄められつつあることです。平野達男参議院議員は「米の所得補償は、平均的な農家の生産費と販売価格の差額の5割か6割といった一定割合について補てんする一種の固定払い」(『東洋経済』09年10月17日号)と言い、概算要求に示された素案でも補償される米価は1万5000円強で生産費を下回っています。

 第3に、いまおこっている米価や果実など農産物の価格暴落にはまったく無力なことです。民主党は、農民連の「ルールどおり100万トン備蓄に達するまで買い入れろ」との要求に対して「米価支持になるから」という理由で反対してきました。ミニマムアクセス米の削減・廃止にもきわめて消極的です。この根底には「民主党は所得補償政策に集中した農政を行うものであって、米価支持政策は行わないのを原則にしている」という自民党以上に冷酷な態度があります。

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民主党の2つの側面にどう立ち向かうか

 日本農業新聞が最近行った読者へのアンケート調査では、民主党農政への懸念として「FTAやWTOの交渉」がもっとも高くなっています。総選挙で民主党の政策全体が支持されたわけではありません。農民連はこれまで、BSE特別措置法の実現やWTO閣僚会合受け入れ反対集会など、いくつかの課題で民主党との共同も経験してきました。また、これまで自民党支持だった農協は、「すべての政党に対して生産現場の声を主張し、国政に反映する」という方向転換も始まりつつあります。

 こういう経験や新たな条件をいかして、私たち国民が強く働きかけていく必要があります。悪いところだけを追及するのではなく、戸別所得補償の価格保障的な側面をおおいに活用することや、飼料米などの水田フル活用、地産地消の推進など、積極面にそって民主党農政をただしていくことが必要になってきます。そして日本の食と農を再生するためには、なによりも政治に影響を及ぼしうる知恵も力もある強大な農民連をつくっていくことです。


新聞「農民」に期待します

ともに支えあって

家庭栄養研究会顧問 山崎万里さん

画像 最近の新聞「農民」紙面には生産者も、産直運動にかかわる生活者もともに女性の登場が多くなり、明るく生き生きしてきたことがうれしいです。

 また、社会経済フォーラムやビア・カンペシーナのように国際的な農民運動が世界の情勢を変えている具体的な報道にはとても勇気づけられ、励まされています。

 エコロジカル・フットプリント(人類が消費している自然資源を面積であらわしたもの)でみると、現在は地球1・3個分の資源を使っていることになり、いまのライフスタイルを続けていると、2030年には地球2個分の資源が必要になるといわれています。食と水と空気が地球上の共通課題になり、人々の価値観の転換が迫られています。

 農業と農民は、地球・自然と人間の対話を仲立ちする〈通訳者〉だと思います。農業にあらわれている様々な問題を都市生活者にも共通課題だとわかるまでには、様々な共通の土俵、対話、理解の深めあいが必要です。

 私たちの会が編集している月刊『食べもの通信』は来年で40年目になります。7月号から、表紙も内容もリニューアルしてがんばっています。ともに支えあい、学びあっていきましょう。

(新聞「農民」2009.11.16付)
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2009年11月

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