「農民」記事データベース20091026-898-05

農地改革と食糧主権こそ
地球温暖化の解決策

ビア・カンペシーナ東南・東アジア地域
地球温暖化フォーラムに参加して

 今年12月にコペンハーゲン(デンマーク)で開かれる「第15回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP15)」は、「京都議定書」に続く2013年以降の温暖化対策の国際的枠組みを決めなければならない重要な会議です。COP15での合意に向けて、9月29日から10月9日まで、タイの首都バンコクで国連の国際交渉が行われました。これに並行して、タイをはじめ世界の環境NGOや市民運動がバンコクに集結し、対抗活動を展開。ビア・カンペシーナ東南・東アジア地域はこれらの対抗活動の一環として、2日から5日にかけて気候変動問題をテーマにフォーラムを開催しました。農民連から新聞「農民」編集部の満川暁代と、通訳として寺澤彩さんが参加しました。


 既に各国で進んでいる異常気象

 フォーラムには、タイ、インドネシア、韓国、ベトナムなど9カ国10組織が参加。各国から気候変動の現状や農業への影響、各国政府の対策などを報告しあうとともに、今進められている国際交渉の問題点や、地球温暖化の解決策を討論しました。

 これらの報告で印象的だったのは、現在すでにアジア各地で温暖化が原因と思われる異常気象がひん発していること、そして農村は最も早く温暖化の悪影響に苦しんでいることでした。

 スリランカの代表は、「気候の変化によって、乾燥した地域はより乾燥が進み、湿った地域は雨が多くなっている。このため重要な作物であるお茶の栽培がうまくできなくなっている」と報告。台湾の参加者は、「台風が大型化し、洪水や土砂崩れが増加。農業が大きなダメージを受け、農村の貧困がさらに深刻化している」と述べていました。

 「海面上昇によって国土が水没の危機にひんしている」と訴えたのはベトナムの代表。「水没だけでなく、工業化が進み、優良な農地や水田が失われ、食糧供給が脅かされている」と述べ、中国に次いで“世界の工場”となろうとしている国ならではの環境問題を告発しました。

国内外のNGOが一同に集結した5日のデモ行進

 森林保全の名で農民追い出し

 そして今回、もう一つ大きな焦点として浮上した問題があります。「森林保全」を掲げた国際的プロジェクト、REDDによって、熱帯雨林地域に暮らす小農民が、森から追い出される事態が続出している問題です。

 インドネシアやタイなどの熱帯雨林をもつ発展途上国の政府は、小さいものでも香川県ほど、大きいものでは宮城県ほどの広大な森林を囲い込み、森に住む小農民にわずかな契約金を握らせて、生活の成り立たない場所に移住させています。その後、熱帯雨林を伐採し、焼き払い、「CO2をたくさん吸収する」ユーカリなどを植林しなおす、ということが、REDDのもとで行われています。

 REDDは、「森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減」とも呼ばれ、まだ国際交渉の途上にある仕組みですが、「森林」の定義や、森が吸収・排出するCO2をどうやって計測するのかという技術的問題、途上国にCO2削減の報償が支払われた後の分配の公正さをどう保つか、など未解決の問題が山積みとなっています。「REDDは、多くのCO2を貯留している熱帯林を焼き払って温暖化を促進するだけでなく、自然を破壊することなく共存している小農民の生活を破壊している」とインドネシアの代表は糾弾しています。

 またタイでは、移住先で生きていくことができず、もとの森に戻ろうとした農民を「不法侵入者」として逮捕し、1年以上も投獄するという事件まで起きています。「私たちは森で大もうけしようとは思っていない。昔からしてきたように、ふるさとの森を守りながらその恵みを受け取り、小さな田畑を耕して暮らし続けたいだけなのだ」とのタイの小農民の訴えに、「家族農家の思いは、どの国も同じ」と強い共感を覚えました。

デモのふん装をした筆者(左から2人目)と通訳の寺澤彩さん(その右)

 先進国のCO2削減が重要

 REDDのような問題が起こる背景には、いま進められている国際交渉でのゆがみがあります。

 地球温暖化の責任は、CO2などの温室効果ガスを長年にわたって出し続け、発展してきた先進国にあり、現在なお圧倒的に多くのCO2が先進国から排出されています。温暖化を止めるには、まず先進国が国内で削減することが決定的に重要です。

 しかし先進国は国内で排出を削減せずに、途上国が削減したCO2に値段をつけ、炭素クレジットとして買い取るという制度を国際交渉で推し進めようとしています。これでは地球温暖化を止めることはできません。

 さらに問題なのは、「安上がりに途上国でCO2を削減する方法」として、REDDやCDM(クリーン開発メカニズム)などの「本当はCO2削減にならない方法」が認められようとしていることです。

REDDを告発するタイの農民代表

 小規模農家こそ環境の守り手

 ビア・カンペシーナは、このような国際交渉での間違った“解決策”でなく、「農地改革と食糧主権こそ地球温暖化の解決策」との提言を発表しました。「小規模農民は食糧や農業、水、森林、生物多様性、環境の守り手である」と高らかに宣言し、持続可能な小規模農業を守る食糧主権こそ「気候の危機」を克服できると呼びかけています。日本で家族農業を発展させることが、世界の温暖化防止につながっているという大きな確信を持つことができたフォーラムでした。
(満川 暁代)

(新聞「農民」2009.10.26付)
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2009年10月

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