「農民」記事データベース20091005-895-08

初心者でも農家の指導で立派な野菜

土に触れ命を育てる農業体験
心を癒し命の大切さを実感

“農業の理解者ふやす”は都市農業の責務


大都会・東京の中の農業体験農園

「大泉 風のがっこう」

主宰者 白石 好孝さん

 「皆さん、こんにちは! 今日は作業がいっぱいありますよ。秋野菜に向けた畑の準備を進めましょう」――東京・練馬区の住宅街に囲まれた農業体験農園「大泉 風のがっこう」の講習会。長靴に麦わら帽子の消費者が、主宰者の白石好孝さんをぐるりと取り囲み、作業の説明を真剣なまなざしで聞いています。

 白石さんは、大都市東京・練馬区に江戸時代から続く畑作農家。キャベツや大根などの野菜を栽培・販売するかたわら、地域の消費者を畑に招き入れ、野菜作りのカルチャースクールともいうべき「大泉 風のがっこう」を開設しています。

 農業体験農園は、(1)利用者は年間3万1000円の入園料(収穫物代金含む)を支払って、園主の農家の指導のもと、1区画30平方メートルで種まき、植え付けから収穫までを体験できる、(2)農家は年間の作付計画を立てて、種や肥料、道具を用意し、1年を通して農作業の指導をし、利用料を収入にできる、(3)練馬区は利用料やトイレなど施設整備の援助を行う、という制度です。

 農地を借りるだけの市民農園とは違い、利用者は自由に好きなものが作れるわけではありませんが、まったくの初心者でも農家の指導のおかげでりっぱな野菜が収穫できるとあって、毎年春の募集では抽選必至の大人気です。

白石さん(手前の後ろ姿)の説明に聞き入る“生徒”たち

「畑の教室」で食農教育

 “生徒”は、年代も職業も多彩な住民

 白石さんが「風のがっこう」を開園して、今年で12年目を迎えます。125組の「生徒」は、サラリーマンや定年退職者、若い夫婦など、年代も職業も多彩な近隣の住民たちです。「最近、20〜30代の若い人の応募が増えてきて、若い人の農業への関心が高まっているのを感じますね」と白石さん。

 「体を動かして、健康づくりにとか、家族でできる趣味にとか、生徒さんたちの目的も多彩です。新鮮で安全な農産物もさることながら、風を感じながら土に触れて、命を育てる農業体験には、人の心を癒やしたり、潤したり、命の大切さを実感したり、という新しい役割があると思います」と言います。

 「地域の住民に農業に親しんでもらいたい」という白石さんの取り組みは、体験農園にとどまらず、多岐に広がっています。その一つが、地域の小中学校と連携した食農教育の取り組みです。区内の農家有志で食農教育のNPO「畑の教室」を立ち上げ、練馬大根を育てる小学校の体験授業を受け入れたり、中学校の職業体験に協力したり。一昨年からはハウスの片隅で1頭の豚を飼い、7カ月肥育した後に「謝肉祭」を開き、みんなでその「命をいただく」という取り組みまで始めました。

 苦労して練馬大根を育てた白石農園は、子どもたちにとってはまさに「畑の教室」。その後もよく畑に遊びに来ます。「大根抜くの、すごく大変だったよ! でもおいしかった!」と、目をキラキラさせながら話してくれました。

 「日本で農業を続けていくには、消費者の理解がどうしても必要です。都市農業は農業体験にしても、直売所にしても、消費者と生産者が直接の関係を結ぶことができます。農業の理解者を増やすことは、私たち都市で農業をする者の大きな責務だと思うのです」と、白石さんは言います。

遊びに来た小学生と“練馬大根談義”する白石さん

 3人の子どもたちと農作業に汗を流していた30代の女性は、「3年前に練馬に引っ越してきて、住宅街の中に畑があることが新鮮でした。子どもたちも畑でできた野菜が大好きです。食料自給率が下がっているのも心配だし、こういう都会の農業も残してほしいですね」と、笑顔で話してくれました。

(新聞「農民」2009.10.5付)
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2009年10月

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