米価暴落
農家がイザという時
知らん顔はできません
山形・庄内農民センターと米産直つづける
横浜市の保育園
「こういう時こそお米を食べている私たち消費者も駆け付けなくちゃ」――7月13日、山形県鶴岡市で開かれた「米価急落・黙ってはいられない、怒りの農民総決起集会」(庄内農民センター主催)に、飛行機に乗って、はるばる横浜からかけつけた3人の消費者がいます。庄内産直センターのお米を給食に使っている保育園の先生たちです。「生産者を守ることは、私たち消費者の食糧を守ること」という熱い共感が、今では「農家応援米」という取り組みに広がっています。
「人から人へ」広がる“農家応援米”
“食は命”を合言葉に20年間
「“食は命”を合言葉に20年間米産直に取り組んできて、庄内の皆さんとは“顔が見える”を越えた“親せきづきあい”。農家がイザという時に知らん顔はできません『私たち消費者も思いは一緒』と言いに行くことが何より大切だと思って」。
「怒りの集会」に参加したみどり共同保育所元園長の斎藤悦子さんがその思いを語ります。
庄内産直センターと、横浜市を中心に神奈川県内の12の無認可保育園給食との米産直が始まったのは20年前。斎藤さんたちは「とりあえず産地を見てみようか」と、半分は観光気分で庄内を訪問しました。ところが一行を待ち受けていたのは、真剣に農業と向き合う農民連会員の姿でした。「農家のおやじさんたちの顔の輝きに、観光気分も吹き飛びました。この人たちは本物だ。信頼できると確信したんです」と、当時を振り返ります。
相互に行き来する交流も…
以来、米産直とならんで、生産者と保育園関係者が相互に行き来する交流が始まりました。庄内の生産者が会議などで上京するたびに、保育園で学習会を開いたり、バザーでもちつきをしたり。農業や食育の大切さなどを体感し、共有する取り組みが、連綿と重ねられてきました。
なかでも11年前から始まった「生命(いのち)の源を訪ねる旅」は、交流の大きな柱となっています。この旅は、みどり共同保育所など4園の年長クラス(5、6歳)が1年に2回、庄内を訪れ、田植えと稲刈りを体験する取り組みで、子どもたちは水源地のブナ林を散策したり、田んぼに沈む夕日を見たり、組合員の心づくしの郷土料理をおなかいっぱい食べたりして、自らの命のもとになっているお米がどうやって育つのかを学ぶのです。
大切なのは価格だけでない
いま保育園給食への米産直は、園長や栄養士のつながりで、40を超える保育園に広がっています。庄内産直センターでは、保育園の先生や栄養士などに呼びかけて、夏祭りを訪ねる「イネの花ツアー」、稲作が育てた伝統芸能「黒川能を見るツアー」などにも、年を通して取り組んでいます。農業や産地の現状を知ってもらうだけでなく、庄内の自然や文化にまるごと触れてもらいたいとの思いからです。
その思いは、保護者らにもしっかりと届いていました。
「やはり子育て中のお母さんの今一番の心配は食べ物なのです。大切なのは価格だけではないということを理解してくれる親御さんたちだから、この産直も続いています」と、戸塚みどり保育園の杉原史子園長は言います。
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杉原園長(後列左から2人目)、斎藤さん(同3人目)、矢野園長(同4人目)と中華保育園の栄養士・調理師の皆さん、園児たち |
暴落で残った米販売に協力
斎藤さんたちの応援は、「怒りの集会」に駆けつけただけでは終わりませんでした。庄内産直センターから、米卸業者に出荷するはずだった米が、全国的な米価暴落のあおりで大量に売れ残っており、「販売に協力してもらえないだろうか」と、斎藤さんたちに相談が寄せられたのです。
さっそく保育園関係者に呼びかけて、庄内農民センター副組合長の菅井巌さんを招いて学習会を開催。いま日本の農業と食糧に何が起きているのかを学びました。
横浜中華街の真ん中にある中華保育園の矢野淑明園長は、「私たちがいつも食べているこのすばらしいお米を作っている農家が、米価暴落で本当に困っていることをじかに聞いて、これはなんとか応援したいと思いました」と言います。
8月上旬には庄内まで足を運び、センターの倉庫に山積みになったお米を見て、「これは新米が出始めるまでの時間との勝負だわ」と、わが事として受け止めました。横浜に帰ると、さっそくチラシを手作りして、職員や保護者はもちろん、中華街の知り合いなどにも声をかけ、多くの注文を集めています。
「人から人へ」「人間対人間」の温かい交流に支えられて、産直米は育っています。
(新聞「農民」2009.9.21付)
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