「農民」記事データベース20090907-892-06

「農」とはものを作る喜びだ
もうけ追求の「業」とは違う


 青年劇場第100回公演
 「結の風らぷそでぃ」のシナリオ作家

    高橋 正圀さんに聞く

高橋正圀(たかはし まさくに)さんのプロフィル 1943年生まれ。山形県米沢市出身。シナリオ作家協会・シナリオ研究所終了後、第20回新人映画シナリオコンクールで佳作入選。山田洋次監督に師事。
 主な作品は、テレビドラマ「まんさくの花」「はっさい先生」、映画「祝辞」「釣りバカ日誌5、7」など多数。1990年にはじめて青年劇場に書き下ろした「遺産らぷそでぃ」は、97年まで全国で300回の上演を重ね、そのあと2000年初演の「菜の花らぷそでぃ」は、今年6月にサヨナラ公演を行い241回の上演を締めくくりました。


 青年劇場は、今年で創立45周年を迎えました。その記念すべき年に第100回公演として、高橋正圀さんの新作、「結の風らぷそでぃ」を上演します。高橋さんはこれまで、食と農をテーマに、「遺産らぷそでぃ」「菜の花らぷそでぃ」を全国で巡演し、好評を博しました。今度の「結の風らぷそでぃ」も、この2作品に続いて食と農をテーマにした作品です。シナリオを書き上げた高橋正圀さんに聞きました。


 消費者に考えてもらえるのでは

画像 昨年の中国毒ギョーザ事件のころから、消費者も食や農のことに敏感になってきました。そして、日本の食料自給率が40%にも満たないということも、国民みんなが知るところとなりました。国会では農地法が改悪され、もうけを追求する効率化・規模拡大の自民党農政に対して、「そんなんじゃ、いけないんじゃないか」という問題が提起できる状況になってきたのではないか、消費者にも考えてもらえるのではないかと思いました。

 シナリオの中で、健太郎(有機野菜を産直している農業青年)が主人公の結に「農と業は違うもんたい」と言って勇気づけます。これは、山下惣一さんのエッセーからとったものですが、「農」とはものを作る楽しさ、生産する喜びです。一方「業」とはもうけ、なりわいです。だから、国が減反や補助金などという農政でしばりつけてきたし、農地法を改悪して株式会社を参入させようとするわけです。

 農の心語るのはやはりじいちゃん

 全国各地に取材に行って農家のみなさんと話しましたが、新潟の松之山で、ある農業青年が「百姓の生き方をしたい」とポツリと言ったんです。その時に、農業を「産業」としてとらえることが間違いじゃないか、そこが一番の対決点ではないかと思いましたね。

 そのことを農業の実感のない人たちにもどうわかってもらえるか。シナリオを書くうえで、そこが苦労したところです。「菜の花らぷそでぃ」は、息子とおやじの話でしたが、今度は娘とおやじの話にしようと思ったんですが、どうもおやじでは若過ぎるんですね。農業の心を語るには、じいちゃんでないといけない。

 それから娘が農業でがんばっている姿をどう表現するか、舞台の上にトラクターやコンバインを持ち込めば簡単なんですが(笑い)。一応書き上げましたが、まだ納得がいかない部分もあるので、さらに手を入れようと思っています。

公演にむけて熱のこもったけいこが続いています(青年劇場けいこ場で)

 ドラマを通じて共感生み出して

 2年前に農民連の東北ブロックの集会があって講演しました。この作品が誕生したのは、その時に福島の根本敬さん(県連事務局長)から「農民連も結成20周年を迎える。ぜひ3作目を」という話があったのが、きっかけですよ。ビア・カンペシーナの話も、グローバル化や新自由主義のアンチテーゼとして語るには、わかりやすくてピッタリの題材だと思います。

 人間らしい生き方とは何なのか、それを疎外しているものは何なのか、まじめに働くものが報われない今の世の中を変えたいと願う多くの人々と、食と農の問題をテーマにしたこのドラマを通じて、共感を生み出し励ましあえればと思っています。

 今回は東京公演になりますが、今後、地方での公演も計画しています。ぜひ、劇場に足を運んでください。

《公演日程》

 日時・会場 ▼9月18日〜27日 東京・新宿の紀伊国屋サザンシアター ▼9月28日 東京・大田区民プラザ ▼9月30日 東京・府中の森芸術劇場 ▼10月1日 東京・かめありリリオホール(各会場の上演時間は問い合わせ下さい)
 料金 一般5000円 30歳以下3000円

 問い合わせ・申し込み先 青年劇場 TEL 03(3352)7200


あらすじ

「結」とは、連帯と共同の心です

画像 佐賀県唐津市の郊外、棚田を背負った戸数300ほどの集落が舞台。農家の娘、結(27)は、都会の仕事を辞めて、周囲の猛反対にあいながら「百姓を継ぐ」と宣言。唯一の理解者、おじいさんの手ほどきで有機農業に挑戦しますが、失敗の連続です。そんななか、結を応援する農業青年や、農水省のエリートコースを投げ打って「農業は6次産業だ」と言ってもどってきた結の許婚(いいなずけ)、農業に企業を呼び込もうと「農地を売ってくれ」と訪ねてくる青年などが登場し、笑いあり涙あり怒りあり、多くの出会いが結を支え育てていきます。主人公の名前「結」とは、連帯と共同の心です。さて、先人たちが何百年とかけて築き上げてきた百姓の心を、いまどきの娘はつかむことができるのでしょうか。なんと、ビア・カンペシーナの話も出てきます。

(新聞「農民」2009.9.7付)
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2009年9月

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