事態放置した政府の責任重大
始まった新米暴落
生産者概算金宮崎1600円、高知2500円下落
民間在庫ふくらみ、政府備蓄大穴
米価下落問題は新たな局面を迎えました。農民連が4月段階から警告を発してきた09年産新米への影響が、予想をはるかに超える激しさでいよいよ現実の問題になろうとしています。
ゆるんだ地盤に集中豪雨の様相
宮崎県コシヒカリの生産者価格は1万2400円で08年産から1600円下落。卸向け販売価格は1700円下落し1万5600円。それでも買い手が付かず、関係者は「実際の取引は1万3000円台」といいます。鹿児島県のコシヒカリも生産者価格は宮崎県と同水準、高知県のナツヒカリの生産者価格は前年に比べて、2500円も下落するひどさです。
新米価格の大幅下落が伝えられると、08年産もまた一段と下がり始め、もう歯止めがかかりません。まさに“ゆるんだ地盤に集中豪雨”の様相です。価格が下がれば下がるほど、在庫を持っていない業者まで「先が不安で米が買えない」という完全な悪循環になっています。
こうした状況を背景に大手量販店は10キロ2980円を軸に一段と攻勢を強めています。この価格が常態化すれば農家の手取りは1万円(60キロ)を切る事態です。農水省が公表した直近の米生産費は1万6412円(60キロあたり07年産の全国平均)で09年産は肥料の2倍値上げなど、生産コストは大幅に上昇する見込みです。このうえ空前の米価下落は農家にとってまさに二重の打撃になります。
政府は100万トン備蓄に買い入れ余地が十分ありながら、買い入れしない口実に「米価は下落していない。たとえ下落しても新米価格から回復する」(7月7日、町田総合食料局長)としてきました。しかし、事実は農民連の指摘通りであり、政府の言い分は完全にうち砕かれました。
また、政府は「備蓄米の買い入れは生産調整をしない農家を利する」(7月7日、枝元計画課長)などとしてきました。これは破たんずみの減反押しつけに固執するあまり、米価暴落を放置して米農家全体を危機におとしいれる重大な失政です。
新たな指針策定するはずが…
7月31日、関係者の注目するなか、新たな基本指針を策定する食料・農業・農村政策審議会食糧部会が開かれました。
この中で、6月末の期末在庫が政府の需給見通しに対し、民間在庫が40万トンも増え、一方、政府備蓄米の在庫は13万トンも減り86万トンしかないことが明らかになりました。基本指針で「100万トン程度を適正水準として保有する」としながら、14万トンもの大穴をあけたままにしていたのです。部会では、生産者や米業者をはじめとする委員の要求や意見にもかかわらず、「秋の作況や生産調整の取り組み状況を踏まえながら適切に対応する」(村井計画課長)としてなんら具体策を示さず原案を押し通してしまいました。
米価下落の事実に目をつむり、自ら決めた備蓄ルールすら守ろうとしない政府の責任は重大です。
農民連の繰り返しの提起にもかかわらず、政府が5、6月段階で手を打たず、今回の食糧部会でも具体的買い入れ方針を示さないため、傷口はいっそう広がっています。このまま本格的な収穫期を迎えれば、事態は悪化するばかりです。
政府は09年産新米も含めて、100万トンを満たす備蓄米買い入れを直ちに実行すべきです。08年産の集荷円滑化対策で買い上げた10万トンは2、3等米や2流銘柄が多いとされています。これは主食用以外の用途へ振り向け、その分の備蓄米買い増しも検討すべきです。また、国際的な穀物需給のひっ迫と東アジア共同備蓄構想への対応を踏まえ、備蓄水準の大幅な拡大をはかるべきです。
農民連は4月段階から「このままでは09年産の米価下落は必至」と警告を発し、米対策全国会議も開き、とりくみの意思統一をはかりました。
この間、農水省の総合食料局長や全国農協中央会、全農、日本チェーンストア協会、日本フードサービス協会、米卸業者の全国組織・全米販などに相次いで申し入れや懇談を行いました。また、全国各地でいっせいに農家に事態を知らせ、自治体、農協への懇談や申し入れを展開してきました。その多くは「重大な事態だ」「米価が下がれば地域経済が成り立たない」など大きな反響を呼び、共感と協賛を得ています。
山形・庄内では「怒りの市民集会」の呼びかけ人に農協組合長や自治体の首長、そして消費者団体代表が続々と名を連ね、地域で署名の回覧板を回し始めました。トラクターデモを展開(秋田)、米どころの自治体が次々と意見書を採択(岩手)、県中央会会長(全農副会長兼務)が全中・全農に要請を約束(宮城)、卸業者が買い上げ要請に署名(福島)、県中央会に協力要請(新潟)など、全国各地に広がっています。7月30日には、北海道・東北の各農協中央会会長がJA全中の茂木会長や各方面に要請を行っています。
各地のとりくみが確実に情勢を動かしています。
収穫期を前にすべての農家がいや応なしに米価下落を肌身で感じる時節。新たな段階を迎えた米を守るたたかいに全力をあげ、要求を必ず実現させましょう。
新たな段階、たたかいはこれから
総選挙で米政策の抜本的な転換を
毎年、「秋に何かが起こり」そして「下がる一方」の米価。需給の混乱と米価下落の大本は米の管理責任を放棄し、市場任せにした「米改革」にあります。
当面の米価暴落対策でも、米政策を転換させるうえでも総選挙は絶好の機会です。長年、農民を痛めつけてきた自公政権の退場はほぼ間違いないと言われ、こうした変化は大いに歓迎すべきです。しかし、その後、どのような農政がうち立てられるか必ずしも明確ではありません。目前の米価暴落を放置して、「水田のフル活用」(自民・公明)とか、「自給率100%」「所得補償」(民主)など、キレイごとを並べて農民の票をかすめ取ることは許されません。「米価暴落に対策を取らない政党・政治家に1票も渡すな」の大運動を展開しましょう。
農民連は農政の大転換を求めて「要求と提言」を発表していますが、作り続けられる農産物の価格が保障され、食糧の大増産で本当に自給率の向上に道をつける農政への大転換を実現しましょう。
(新聞「農民」2009.8.10付)
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