「農民」記事データベース20090727-886-11

水俣病特措法が成立

被害者を切り捨て
加害企業を救済

関連/水俣病の苦しみ今も


 「水俣病特別措置法」が7月9日、参議院本会議で、自民、公明、民主各党などが賛成し、成立しました。水俣病患者団体は、「同法は、水俣病の被害者を切り捨て、加害企業チッソを救済するもの」と、強い怒りの声を上げています。

 成立した水俣病特措法は、「救済対象となる症状を拡大する」といいますが、具体的な救済対象の範囲や判定基準などは何も決まっていません。さらに認定申請者や訴訟提起者は対象外であり、被害者大量切り捨てに道を開く内容です。

 一方で同法には、チッソと財界からの強い要求によって、「加害企業の分社化」が盛り込まれました。これは、補償責任を負う親会社は補償金を支払った後に消滅させ、液晶部門など利益を上げている子会社は水俣病の補償とはすっぱり縁が切れるというものです。潜在的被害者の救済の道が閉ざされることになるだけでなく、公害対策の基本原則である「汚染者負担」原則の否定にもつながる問題です。

 同法案は、自民・公明両党が今国会に提案。「分社化反対」を掲げていた民主党は2日、急きょ態度を変えて修正協議で合意しました。3党は衆議院では質疑なし、参議院も3時間弱の質疑時間で、専門家や学識者はおろか、被害者の意見を聞く場も設けないまま、採決を強行しました。日本共産党、社民党は反対しました。

 全員救済までたたかいぬく

 国会前では、水俣病不知火(しらぬい)患者会、ノーモア・ミナマタ訴訟原告団、新潟水俣病阿賀野患者会などの水俣病患者団体が、病身をおして、「被害者の声を聞け」「特措法の撤回を」などの横断幕を手に、連日、座り込みの抗議活動を繰り広げました。原告団長で水俣病不知火患者会会長の大石利生さんは「被害者の声も聞かないまま、問題の幕引きをしようとする特措法の成立に心の底から怒りがわく。被害者全員の救済を求めて、裁判でたたかい抜きます」と決意を語りました。

 座り込み行動には、農民連、全国公害被害者総行動実行委員会、民医連、公害弁連、社保協など広範な団体が連帯に駆けつけました。農民連の上山興士さんは「私たち農民にとっても水俣や公害は他人事ではありません。企業を優遇し、民意を切り捨てる姿勢は農政でも同じです。ともにたたかいましょう」と熱いエールを送りました。

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水俣病患者らの座り込み行動で力強く激励する農民連の上山興士さん(右端)


*水俣病

 「公害の原点」とも言われ、熊本県のチッソ水俣工場が、猛毒のメチル水銀を不知火海に垂れ流し、汚染された魚を食べた住民らに感覚障害、運動失調、手足の震えなどの重大な健康被害が引き起こされた。新潟県でも昭和電工の工場が原因で、新潟水俣病が起きている。

 最初の患者の公式発見から53年がたつが、政府・行政による全面的な健康調査も行われておらず、未救済の水俣病患者は3万人を超え、今なお増加している。


水俣病の苦しみ今も

水俣病不知火患者会 鶴川 信幸さん

画像 私は30歳で水俣病が発病し、それからの35年間、手足がしびれる、耳鳴りがする、身体に激痛が走るなどの症状に苦しんできました。

 郷里は半農半漁の集落で、父は漁船の乗組員でした。私も中学卒業後、漁船に乗り込みました。水俣病が起こる前の不知火海はおいしい魚が本当にたくさん獲れて、若くても一人前の給料がもらえて、うれしかったですよ。でもその海に、加害企業チッソは猛毒だと知っていてメチル水銀を垂れ流したんです。

 私の弟も、51歳で水俣病で亡くなりました。入院して3年間、母は病院に泊まり込んで看病し、公害で漁業ができなくなって神奈川で働いていた私も、盆や正月も実家に帰らず病院に駆けつけ、看病しました。亡くなる前の弟は、寝たきりになり、手も足も曲がったままで、本当に「これが人間の姿だろうか」と思うほど悲惨なものでした。私たち遺族は身体が曲がったままの遺体を荼毘(だび)にふし、曲がったままのお骨を拾いました。これほど症状の重かった弟も国の基準では水俣病とは認定されず、死んでもなんの補償もされていません。

 私たち患者は、金目当てで裁判をしているのではありません。チッソと国、行政に加害責任を認めてもらいたい。健康な身体に戻してほしいと願っているのです。

 今も、体中がしびれて、夜は睡眠薬を常用しても激痛で4時間と眠り続けられません。

 神奈川で働いていた私は、自分も水俣病だと長い間判明しないまま、症状に苦しんできました。まだ自分が水俣病だと気づいていない人や、水俣病だと名乗り出ていない被害者がたくさんいます。チッソは、分社化する前に、こういう人も含めてすべての被害者に補償をすべきです。特措法が成立しても、裁判でたたかい抜きます。

(新聞「農民」2009.7.27付)
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2009年7月

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