08年「水産白書」を読んで
水産物貿易の根本問題ふれず
現状追認――安定供給に疑問
農水省は、2001年から「漁業白書」を「水産白書」に名称を変更しました。その後の内容は、魚の生産状況から流通・消費へと水産業全体を報告するように変化してきました。昨年は、世界的に魚食が注目されていることや、国内では魚離れが進行していること、海外で輸入魚の“買負け”が起きていることなどを特集していました。
今回も2つの特集を組んでいます。一つは「新たな取り組みで守る水産物の安定供給」です。国際的な魚食ブームの中で苦しんでいる日本漁業の現状を、資源・環境・後継者・漁業生産・流通構造・価格の面から報告し、各地の国際化対応の取り組みを丹念に紹介しています。しかし、そのまとめの中では、WTO体制下での水産物貿易の根本的な問題点には触れず、現状を追認しながら、資源維持、漁獲効率向上、新しい生産技術の導入などによって、変革していかなければならないとしています。本当にその程度のことで、水産物を安定して国民に供給していけるのでしょうか。
もう一つの特集では、子どもたちの食卓を通じて魚食の現状を報告していることです。子どもたちの魚離れの原因は、必ずしも魚が嫌われているのではなく、現代の家庭生活における塾通いや孤食、調理時間のなさ、下処理問題などによるとして、最後には“はし”の持ち方まで示して魚食文化の影響の大きさを述べています。
「白書」は興味深い図表を多数載せていますが、その中に外食化を示す「食料支出額に占める品目・形態別シェアの推移」(図)があります。最近では、30%を超えて外食・中食(調理食品)化していることがうかがえます。
昨年から農水省では「水産白書」の報告会を開催していますが、今年の報告会では、昨年のような危機的な話はなく、国際化した魚食産業の中で日本はいかにうまく立ち回って水産業を維持するかを述べる程度でした。
(21世紀の水産を考える会 山本浩一)
(新聞「農民」2009.7.13付)
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