「農民」記事データベース20090629-882-02

農地法改悪の強行に抗議する

2009年6月18日農民運動全国連合会会長 白石淳一


 一、6月17日、参院本会議で農地法改悪案が可決・成立した。法案には自民党、公明党、民主党が賛成し、日本共産党、社民党、国民新党などが反対した。農外企業や外資までも農業への参入を自由化し、農地の所有に道を開くことへの批判が日に日に広がっている中での採決強行は断じて容認できない。

 農地制度は、戦前の農民の命がけのたたかいの成果が実り、戦後日本の民主化の一環として確立されたものである。これを維持するための農地法は、日本農業の根幹にかかわるものであり、その根本にかかわる改変は、国民的な議論と合意が必要で、拙速に成立させることは許されるものではない。農民連は、政府と自民党、公明党、民主党に満身の怒りをこめて抗議する。

 一、不十分な国会審議でも法案の矛盾が明らかになった。法案を全面的に容認する質疑は皆無であり、すべての質問が改悪による弊害を懸念するものであった。農業に参入している企業代表は、参考人質疑のなかで、条件の悪い農地には参入しないことを繰り返し陳述し、企業の撤退が新たな耕作放棄地を生み出している深刻な実態も明らかにされた。石破農水大臣も、農地法を変えても直ちに耕作放棄地は解消できない、耕作放棄地の原因は「もうからないからだ」と答弁するにいたった。まさしく、“耕作放棄地を解消するため”という農地法改悪の口実は完全に破たんした。農地の利用を自由化した後のチェックを担う農業委員会の機能に対する懸念も相次いで表明された。このような矛盾や懸念を払しょくする農水大臣等の答弁はなく、廃案こそが国会審議の到達点であり、とるべき立場であった。

 農地法の改悪は、農民が要求したものではなく、財界が主導したものである。世論と国会審議の到達点を無視して与党と民主党が採決を強行したのは、財界の要求に応えることを最優先した結果であり、企業献金で汚された財界言いなりの政党の体質は、間近に迫った総選挙で国民のきびしい審判にさらされなければならない。

 一、農地法改悪は強行されたものの、農民連・食健連を先頭にした法案阻止のたたかいは、短期間に情勢を突き動かした。宣伝が全国で展開され、多数の農業委員が反対署名に応じ、団体請願署名は2000団体近くまで広がり、農業委員会の反対建議や、地方議会の意見書採択も相次いだ。各界の有識者による共同アピールも大きな力となり、「社会的責任をかなぐり捨てて派遣切りするような大企業に農地を明け渡すな」という世論の流れがつくられた。

 この間の大企業の社会的責任を追及する運動の成果が、農地法改悪阻止のたたかいでも階層の違いを超えて社会的連帯となって広がり、国会論戦に大きな影響をもたらし、法案がボロボロになるまで追い詰めたのである。こうした運動の広がりは、今後の農業と食糧、農山村を再生する運動を前進させる貴重な財産となるものである。

 一、農地法改悪によって、今後、重大な矛盾と困難が農業と農村、国民にもたらされることが予想される。利潤最優先の大企業の参入を地域ぐるみで跳ね返す運動とともに、助け合って生産を拡大し、農地を維持するとりくみが決定的に重要になる。そして何よりも、農業で生活し、営農が継続できる価格保障を確立し、担い手の育成・確保、耕作放棄地対策の強化に踏み出す農政を実現することが求められる。

 いま、日本の政治が立ち向かうべきは、国際的に深刻になっている食糧危機を打開し、安全な食糧の安定供給をはかることであり、内需型・循環型の経済に転換すること、そして地球温暖化対策に力を尽くすことである。家族経営を軸に、生産を拡大して食料自給率を向上させることはその根幹であり、農地法の改悪はこれに真っ向から逆行するものである。

 いま、政治が問われている。農業・食糧問題を重要な争点にたたかわれる総選挙は、いよいよ重要である。農民連は、国会での議論の到達点も生かして地域農業と農地を維持・発展させることに全力を尽くすとともに、来るべき総選挙で農政の転換を勝ち取るために全力をあげるものである。

(新聞「農民」2009.6.29付)
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2009年6月

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