おいしい無農薬茶もっともっと飲んで
静岡・藤枝市農民組合
「無農薬茶の会」
忙しい農作業が一段落。ほっとひと息つきたいとき、皆さんは何を飲んでいますか? 急須に新茶を入れて、ゆっくり味わってみてはいかがでしょう。静岡県・藤枝市農民組合の仲間たちは、30年以上にわたって「無農薬」のお茶づくりに取り組んできました。こだわりのおいしいお茶を多くの人たちに飲んでもらいたいと、販売にも力を入れています。
藤枝市は、南アルプスへと連なる山すその町です。古くから、丘陵地の斜面を生かしたお茶の栽培が盛んで、農民組合の仲間たちも、茶栽培を経営の柱にしている人がほとんどです。
杵塚敏明さんらは33年前、仲間数人で「無農薬茶の会」をつくり、農薬や化学肥料を使わないお茶栽培に挑戦してきました。新芽の美しい緑色が命のお茶は、農薬や化学肥料を大量に使う栽培法が「常識」化し、その結果、畑の土が荒れ、お茶の葉も納得のいく香りが出なくなっていると、疑問を感じていたからです。
「本来、お茶の葉は季節によって微妙に色が変わるものなのに、慣行栽培の畑では一年中、黒々とした緑色をしています」と杵塚さん。化学肥料が多投されて窒素分がいつでも多量にあるため、“肥満児”になっているのだといいます。これでは、新茶のさわやかな香りは出せません。
「良い百姓は良い作物をつくる前に良い土をつくる」という信念を持つ杵塚さんらは、秋から冬に大量のたい肥を投入。労力を惜しまず土づくりに励みました。
予想されたこととはいえ、無農薬栽培は害虫とのたたかいでした。特に農薬をやめて数年の間は、メクラカメムシなどの害虫が大発生し、茶畑が文字通り「茶色」になってしまう大被害も経験。周囲の農家から冷笑され、悔しい思いもしました。
しかし、何年かすると、クモやカエルなど、害虫の天敵が茶畑に住むようになり、力強く根を張った茶樹の抵抗力も相まって、茶畑の様子が落ち着いてきました。周囲の茶畑が深刻な害虫被害を受けている年でも、無農薬の畑は何ともないということもありました。
一方、加工も大きな課題でした。茶葉は、生産者が一次加工して「荒茶」という半製品で出荷するのが一般的で、生葉を蒸し、もみ(4段階)、乾燥させる、という6工程を、大がかりな機械で処理します。通常は集落ごとに組織された茶農協が加工所をつくり、茶葉を加工しています。しかし、茶葉の収穫は短期間に集中し、加工所もフル稼働になるため、無農薬の茶葉だけを別に扱ってもらうことはできません。
そこで無農薬茶の会では、自家用に加工場を所有している会員が、仲間の茶葉の加工を請け負うことにしました。特に、いちばん大きな加工所を持つ種石銀一さんは、大型の機械を買い入れて工場を拡大。大量の茶葉加工を引き受けています。「仲間が丹精込めて育てた茶葉ですから、加工で失敗するわけにいきません。新鮮なうちに処理することが第一」と言います。
最近、杵塚さんが仕上げ工場を建設し、最終製品まで自分たちで仕上げることができるようになりました。また、上質の緑茶を作ることがむずかしい「二番茶」の対策として紅茶づくりを開始。スリランカから機械を輸入して紅茶工場も造りました。
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大きな機械が並ぶ種石さんの加工場 |
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仕上げ工場の完成で、製品まで一貫生産 |
消費者の理解・支援あってこそ
仲間たちが互いに切磋琢磨(せっさたくま)して、栽培も加工も技術が向上し、いまでは慣行栽培に負けない品質のお茶ができるようになりましたが、これは、安全でおいしいお茶を求める消費者の理解と支援なしにはできなかったことです。当初から、害虫にやられたお茶を試飲したり、畑の草取りを手伝うなど、近隣の消費者が試行錯誤を支えてきました。また、新茶の収穫期には毎年「お茶摘み交流会」を開催。全国から消費者が集まり、「茶摘み」や「手もみ」を体験しながら、生産者と結びつきを強めてきました。
こうした交流を通じて産直がひろがり、出荷量は徐々に増大。「無農薬茶の会」会員も、現在では約30人に増えています。
順調に発展してきた無農薬茶ですが、今年は思わぬ壁に突き当たりました。最近の深刻な不景気が影響して、高級茶を中心に売れ行きが思わしくないのです。今年の新茶は、まだ在庫が大量に残っており、いままでにない事態です。「お茶は嗜好(しこう)品だから、真っ先に節約の対象になるようだ」と杵塚さんの表情も曇りがちです。
販売不振の背景には、大手製茶メーカーが市場に強い影響力を持つようになってきたことがあると、関係者は指摘します。以前は、生産者が出荷した荒茶を茶商(問屋)が仕入れ、ブレンド、仕上げ加工して市場に流通させるのが一般的な流通形態でしたが、現在は大手製茶メーカーが、ペットボトル飲料や、大手スーパー向けの低価格の緑茶商品の原料として大量の茶葉を仕入れており、静岡県では、上位2社が生産量の6割を握っているともいわれます。メーカーは一定の値段以上では買わないので、上質の茶葉ほど“買いたたかれる”結果になり、生産コストを償う価格で販売することは、ますますむずかしくなっています。
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無農薬茶の会の仲間たち。左端が種石さん、3人目が杵塚さん |
初心に帰って魅力を伝えたい
杵塚さんは「最初は“無謀”ともいわれた無農薬茶は、消費者に支援を訴えることで成功しました。初心に帰ってお茶の魅力を多くの人に伝え、販路を拡大していきたい」と決意を新たにしています。
種石さんも、「厳しい状況が茶農家だけのものでないことはよく承知しています。全国の農民連の仲間たちと連携を強め、組織内で互いに産直を広げるなど、力を合わせて困難を突破したい」と熱く語りました。
(新聞「農民」2009.6.29付)
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