ずばぬけて高い
日本の農地の人口扶養力
《解 説》
歴史的条件無視した「国際標準論」
財界や政府、御用学者は、日本農業を過保護で国際競争力のない“ダメ産業”であるかのように描き出し、「だから構造改革が必要だ」というワンパターンの議論を展開しています。また「日本農業はあまりにも零細であり、国際標準である最低10ヘクタール以上の農家に集約することをもっとスピードアップする必要がある」という珍論を堂々とのべる“有識者”もいます(経済財政諮問会議=06年11月2日=で、八代尚宏・国際基督教大教授)。しかし、農家の経営規模は、0・5ヘクタール(中国)から3000ヘクタール(オーストラリア)まで千差万別であり、「国際標準」などというものはそもそも存在しません。
経済学の始祖といわれるアダム・スミスは「水田は、ヨーロッパの最も肥沃な小麦畑よりもはるかに多量の食物を生産する」と書いています(『国富論』)。だからこそ、アメリカやヨーロッパの農民は、日本やアジアの何十倍という農地がないと、自分たちも食えないし、国民も養うことができなかったのです。地球の面積の4分の1しかないアジアが、世界人口の6割以上の人たちを養うことができたのは、こういう違いによります。逆にいうと、アジアの農地の人口扶養力の高さが人口の多さをもたらし、その結果、アジアの農民の経営規模が小さいままだったということになります。
こういう歴史的条件を無視した「国際標準」論は、無知以外のなにものでもありません。
オーストラリアは100分の1
農民連は約10年前から、アジアと欧米の農地の生産力の違いを指摘してきましたが、5月に公表された『食料・農業・農村白書』は、農地1アールあたりのカロリー供給力の国際比較を紹介しています。これによると、日本の供給力が約10万カロリーなのに対し、アメリカは2万8千カロリー、オーストラリアは1万1000カロリーで、ほぼ10分の1。
『白書』は採草・放牧地を除いた「農地」だけで比較していますが、採草・放牧地を含めた「農用地」で比較すれば、違いは格段に大きくなります。また、国民1人あたりのカロリー摂取量は、日本が約2500カロリーであるのに対し、アメリカは3700カロリー、ヨーロッパが3500カロリーです。
こういう違いを加味すると、グラフのように日本の農地は1ヘクタールで10人近く養えるのに対し、アメリカは0・9人、オーストラリアにいたっては0・1人です。
“非効率な農業は撤退して自由貿易にまかせればよい”――これがWTO流自由貿易原理主義の定説ですが、これだけずばぬけて人口扶養力が高い日本の農業が“撤退”したら、食糧危機はますます激しくなるだけです。
◇訂正 7月6日号にて、以下の訂正がありました。
6月22日付「農民連の要求と提言」のうち、「ずばぬけて高い日本の農地の人口扶養力」の記事中に誤りがありました。「一粒の種から30粒しか収穫できない小麦に対し、米の収量は100〜120粒」を削除します。おわびして訂正します。
記事はFAO(国連食糧農業機関)の統計を使って試算した『日本の米』(持田恵三著)を参考にしましたが、データが古いうえに、実態とは大幅に食い違いがありました。実態は、栽培方法や品種によって違いますが、一粒の種から収穫できるのは、小麦で100粒程度、米で1000〜3000粒程度とされています。
なお、農用地1ヘクタールの人口扶養力の試算にあたって、小麦と米の収穫倍率の違いは一切使っていませんので、この記事の主題には誤りはありません。
2009年7月13日、訂正しました。
(新聞「農民」2009.6.22付)
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