本の紹介
宇野忠義著
青森農業は生き残れるか
リンゴ果汁輸入増の中での農家の経営悪化を分析する
本書は、弘前大学を定年退官した宇野忠義さんが、“第二のふるさと”ともいうべき青森の農業再生を願って書いた本です。
本書はまず、「日本と青森県の農業を襲っている難問は、WTO体制に深く関連している」と指摘し、青森県の農業、特に米とリンゴについて分析していますが、最も力点がおかれているのは、リンゴ果汁輸入の増大によるリンゴ農家の経営悪化についてです。
果汁加工用のリンゴ販売額は、リンゴ果汁の輸入自由化(1990年)前は59億円(5年間の平均)でしたが、自由化以降は2002年から2007年までの5年間の平均で約23億円と62%も激減しています。輸入果汁の激増により加工用のシェアが激減し、相対的に生食用の割合が高まりました。このため、生食用の需要が減少傾向にあるなかで、供給が反対に増加したために、大幅な価格低下をもたらしています。生食用、加工用ともに供給がダブついて価格が激落するという構造になっているのです。
宇野さんは、輸入果汁が激増するもとで、加工用リンゴが生食用リンゴの価格安定、需給調整の役割を失っている現状の中で、生食用だけの価格対策では「底に穴が空いたバケツのようなもの」と指摘しています。
国内で消費されているリンゴ果汁の9割は輸入です。かんきつ等を含めた果汁全体でも9割が輸入で占められ、原料原産地の表示もなく消費されています。この実態に目を向けずに、果樹の安定生産、価格対策を考えることはできません。
宇野さんは最後に「深刻化する食糧問題を考えるキーワードである『食糧主権』は、今や世界の世論となりつつある」「生産者と消費者が目覚め、立ち上がる時だ」と結んでいます。この呼びかけに応えていかなくては、と思いました。
(青森県農民連 須藤宏)
(新聞「農民」2009.6.15付)
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